Yahoo!天気情報 生みの親の心得は天気を愛し過ぎず<後編>

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ALiNKインターネット 代表取締役CEO池田洋人さん(後編)

 腰の古傷が再発し、気象予報士に合格した直後に2年間寝たきりになった。しかし、病床で気象予報とインターネットを組み合わせた新ビジネスを構想。復帰後、民間気象会社を経てヤフーの門を叩いた。

「面接してくれたのは創業社長の井上雅博さんと、後の社長で今は東京都副知事の宮坂学さん。私は気象ビジネスへの熱い思いを夢中で話したのですが、井上さんからこんなふうに返されました。『君は天気しかできないのか』と。それに対して私は『はい、天気をやりたいんです』と答えました」

 熱意が認められてヤフーに入社した池田さん。気象情報サイト「Yahoo!天気情報(当時)」のプロデューサーを任された。直属の上司は宮坂氏だった。

「それまで私は個人のホームページやiモードサイトを手掛けてはいましたが、さすが〈ネット界のNHK〉を標榜している会社だけあって、サイトの見せ方や使い勝手などはすごく洗練されていました。それを宮坂さんから直接学べたのは大きかったですね」

身ひとつで飛び込んだヤフーで「雨雲レーダー」を開発

 ネット史に名を残すカリスマの薫陶を受けつつ、ヤフーで残した実績は数知れない。言ってしまえば、今の「Yahoo!天気・災害」の形を作ったのはこの人である。

「今では当たり前の〈雨雲レーダー〉を作ったのは、当時、雨雲の動きによる降水のメッシュ予報自体あまり知られていなくて。だけど私は天気を見る時に一番使っていたので、なぜ皆使わないんだろうと思ったのがきっかけです。まだグーグルマップがなかったので、地図会社から高精細の地図を買い、そこに雨雲の予測情報をメッシュ状に載せていくという地道な作業をしました」

 日本地図をクリックすると、例えば関東から東京へ進み、最後は自分の住んでいる地域の天気情報が表示される仕組みも実装した。

「当時の天気サイトは全てテキストでした。東京の文字をクリックすると、区や市の名前が出てきて、それをクリックすると……という感じ。まだインターネット回線が細く、1ページあたり50キロバイトに収めなければいけないルールがあったからなんですが、ヤフーが持っていた高度な圧縮技術を使うことで、ビジュアル化することに成功しました」

 最後にやった大仕事は、地震など緊急時にヤフーの全ての広告が地震や津波の情報に切り替わる仕組みの導入。これは現社長の川邊健太郎氏と2人で中心になって成し遂げた。これにより、同社で優れた功績を挙げた社員に贈られる〈スーパースター〉表彰を受けた。

「これで天気はやり切ったなと。もっとインターネット全般に目を向けたいと思い、独立したんです」

 先のことは何も考えずにヤフーを辞めたが、すぐに声をかけてきたのが日本気象協会。振り返れば最初に入社したのも日本気象協会が出資した会社。その後もさまざまな局面でこの協会と関わってきただけに、「思いの強い」相手だ。当初は協会のインターネット関連の営業支援業務を個人として請け負ったが、やがて気象メディア「tenki.jp」の立て直しを任される。

「ヤフーの天気情報は自分が手塩にかけて育てた子供。それを抜きたいという思いが起こり、お受けすることにしました」

 その後、2013年に「tenki.jp」の運営を主事業とするALiNKインターネットを創設。19年に当時の最少従業員数(9人)でマザーズ上場を果たした。

 ところで「tenki.jp」のサイトをのぞいてみると、他の気象サイトとは違うことに気づくはずだ。非常に見やすいだけでなく、天気とは一見関係のない旅行記事や、商品のバナー広告が目につく。実はこの広告も、ユーザーの属性に応じて切り替えられている。

 今では当たり前のこの「運用広告」をいち早く取り入れてきたのが同社の成長のカギのひとつといえる。

 つまり単に気象情報を伝えるのではなく、「天気」を入り口にして買い物やレジャーなど、さまざまな行動を利用者に促すのが目的の、いわばポータルサイトなのだ。

「アイデアを発想する時に心がけているのは“天気を愛し過ぎない”こと。なるべく一般の人の視点で〈こういうのがあったらいいな〉ということを考えています」

 経営理念は「未来の予定を晴れにする」。天気を変えることはできないが、未来の予定を晴れにすることはできるという思いからだ。

 生活に身近な天気を活用したビジネスで、池田さんはコロナ後の世界も晴らすことができるか。

(聞き手=いからしひろき)

■いけだ・ひろと 1974年、埼玉県生まれ。民間気象会社で生気象学を組み合わせたアプリやモバイルサイトの企画立案を行う。2003年、ヤフーに入社。「Yahoo!天気情報(当時)」のフルリニューアルを行う。05年に独立。08年から日本気象協会と共同で「tenki.jp」の事業運営に携わる。13年、ALiNKインターネットを設立。著書に「ずっと受けたかった お天気の授業」「たのしく学ぼうお天気の学校 12ヶ月」(いずれも東京堂出版)。

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