長嶋茂雄さんは美食家で、毎年開幕前は総勢100人近い球団関係者を高級中華料理店に招待してくれた
今もってファンの方々に愛される長嶋茂雄さんは素顔も魅力的な人だったが、藤田元司監督もまた、接した誰もが魅了される人だった。
現役を5年で引退し、スカウトやスコアラーをやっていた私をコーチに引き上げてくれたのが藤田監督。「瞬間湯沸かし器」の異名を取り、特に怠慢プレーなどには容赦なく怒った。忘れられないことがある。
当時、巨人では3連戦ごとに賞金が出ていた。試合の活躍に応じて、100万円だったら100万円を分配するのだ。ある日、投手の何人かがその賞金の割り振りを巡ってモメていた。オレが20万円でなんでアイツが30万円なんだ、と文句を垂れていた。それを耳にした藤田監督が眉を吊り上げ、「カネのことでモメるんじゃない! そんなにカネが欲しけりゃ、オレがやる!」と一喝。翌日、300万円の札束を持ってきて、「好きなように分けろ! 活躍すれば給料は上がる。そんなことでモメるな!」とテーブルの上にボンッと叩きつけたのである。
指揮官にここまでされて、こたえない選手はいない。卑しい自分を恥じたのだろう。以降、賞金の配分を巡って選手同士がモメるようなことはなくなったと記憶している。藤田監督の一喝は、結果的に選手同士にも禍根を残さずコトを収めることになった。さすがの名采配、と感心することしきりだったのを覚えている。