「北の富士さんと私」相撲中継38年の元NHK吉田賢アナウンサーが語る

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 ──ファッションでも視聴者を魅了した。

 例えば夏場には紗の着物(薄物の着物)を着てね。粋も粋。「昔のを引っ張り出してきたんだよ」なんて照れ隠しで言って。男性の和装文化を、今の世の中に教えてくれた人でした。

 それで、モニターでちゃんと自分の姿をチェックしているんですよ。あるとき、白い浴衣だった。「きょうは涼やかな浴衣で」と本番で振ったら、モニターを眺めて、「う~ん、入院患者みたいだな」って。反省するときもあった(笑)。

 真っ赤な革のジャケットを着て放送席に入ってきたときは、唖然としました。でも、画面に映った姿を見ると、ピシッと決まっている。

 そうそう。私の母親が北の富士さんのファンで、「見劣りしてしょうがないから、おまえは一緒に映るな」って。仕事でやっているのにね。

 ──解説席での逸話には事欠かない。北の富士さんの「あ、見ていなかった!」は、好角家が好んで話題にする余話の一つ。

 これ、本当に取組を見ていない場合と、実は見ていたのに「見ていなかった」と言っているのが半々なんですよ。北の富士さんは解説席でも自然体。お叱りを受けるかもしれませんが、「この取組はあまり興味ないな」というときは、手元の紙に何か書いたりして、本当に見ていない。でも、残り半分は実は見ている。

 ──なのに見ていなかったふり。その心は?

 まず、語るに及ばないとき。あっけなく終わってしまった取組とかね。次いで、「今の内容は、向正面の親方が得意にしていた形だから、そっちに振れ」と暗に言っているとき。

 私もよく、「では、(向正面の)舞の海さんに聞きましょうか」と。でも、舞の海さんがひとしきり語った後に、「いや俺はそうは思わない」って見事にハシゴを外す。見ていなかったと言っているのに(笑)。

 あるいは、そう言ったらアナウンサーはどう対処するかな、と明らかに面白がっている場合も。まったく、いたずら好きでしょ。

 ──中継中、たまり席や桟敷に著名人が来ているか、モニターをよく観察していた。

 あるとき、「あっ!」て画面を指さすから、見たら、画面の隅に浅丘ルリ子さん。ところが「あっ」て声は思いの外大きくて、マイクが拾ってしまった。だから私は、「あ~、きょうは桟敷に浅丘ルリ子さんがいらしているんですね」と応じた。すると北の富士さんは一転、「お、そう?」って。私がキョロキョロして浅丘さんを見つけて、北の富士さんは真面目に相撲を見ていてつゆ知らず。話を振られて、はじめて知ったという体にされてしまった。

 ──北の富士流の魅力は尽きない。

 北の富士さんの謦咳に接して、相撲や中継のみならず、人生そのものも勉強させてもらいました。……これ、きょうのネクタイ、北の富士さんの形見です。北の富士流の免許皆伝とは到底いかないけれど、北の富士さんの「心」を大事に、まだまだ相撲実況を続けたいと思っていますよ。

(構成=山家圭)

※インタビューの詳細は、吉田アナが出演する日刊ゲンダイYouTube「しまなみ親方の大相撲日刊ゲンダイ場所」で。

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