「流転 緑の廃墟」中筋純著

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 廃墟という言葉から連想されるのは、人間に見捨てられ、かつてそこにあったはずの人々のざわめきや温度を失ったモノトーンのような景色だ。しかし、本書に登場する廃墟は人間たちの気配が歳月を経て脱色され、自然へと回帰する過程の緑が横溢する鮮やかな世界だ。

 使役や管理という束縛から解き放たれた建物は、迫りくる圧倒的な植物に侵食され、本来の直線的な輪郭を失い、濃淡さまざまな緑のグラデーションで塗りつぶされようとしている。

 炭鉱の施設であったり、ホテル、学校、住宅と、現役時代は区分され、それぞれの用途で役目を果たしてきたそれらの建物たちは、ひとくくりに廃墟と呼ばれるようになるほど、見る影もなく朽ち果て、この世界から消滅する時を待っている。

 植物たちは、音もなく侵食していく。コンクリートの堅牢な建物だろうが、木造だろうがおかまいもなく、まずはその外壁に迫り、そして内部へと自分の領土を広げていく。

 島全体がコンクリートで塗り固めたように見える軍艦島(長崎県端島)でさえ、緑の侵食は押し寄せてきている。高層住宅と高層住宅の間から湧き上がるように盛り上がる樹木の勢いに、ほうっておけばこの遺構がまたたくまに平凡な緑の島へと姿を変えてしまう予兆を感じる。

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