複雑な干渉が招いたEUの機能不全を分析

公開日: 更新日:

 中東からの難民急増に揺れるEU(欧州連合)。第2次世界大戦の惨禍から生まれた巨大な集合体は今、世代が交代し、世界の経済状況が変化したことで、その統合にほころびが生じ始めている。

 ロジャー・ブートル著、町田敦夫訳「欧州解体」(東洋経済新報社 1800円+税)では、イギリスナンバーワンエコノミストが、EUの歴史をたどりながら、内在する機能不全について分析をしている。EUの前身であるEC(欧州共同体)発足後最初の20年、加盟各国は極めて力強い発展を続けた。ドイツは年率で平均4.7%、フランスは5.2%、イタリアは5.3%の経済成長を遂げている。ところが、ここ20年ほどは大半のEU加盟国で経済成長率が低下しており、年平均成長率はドイツで1.6%、フランスで2.1%、イタリアで1.8%となっている。

 このような停滞を招いた要因として、著者は「労働法」「貿易」「競争」「資本と人の移動」「節約下手と浪費」という5つのキーワードを挙げて解説している。例えば、EUでは労働法規に関して域内全域に適用される制限事項を設けている。労働時間指令(WTD)では、1週間の労働時間の上限、1日あたりの最低休息期間、年次有給休暇、夜間労働者に対する特別な保護などが定められている。しかし、WTDの干渉には年間およそ86億ポンドもの負担が強いられるとして、イギリスをはじめ北欧諸国は強い批判の姿勢を示している。また、2011年に発効した派遣労働指令では、臨時的な労働者にフルタイム労働者と同等の給与や休日勤務手当等を与えるよう規定された。これによって労働市場の柔軟性は著しく損なわれ、臨時雇いを確保せざるを得ない小規模事業所は重い負担を強いられることとなっている。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    やはり進次郎氏は「防衛相」不適格…レーダー照射めぐる中国との反論合戦に「プロ意識欠如」と識者バッサリ

  2. 2

    長嶋茂雄引退の丸1年後、「日本一有名な10文字」が湘南で誕生した

  3. 3

    契約最終年の阿部巨人に大重圧…至上命令のV奪回は「ミスターのために」、松井秀喜監督誕生が既成事実化

  4. 4

    これぞ維新クオリティー!「定数削減法案」絶望的で党は“錯乱状態”…チンピラ度も増し増し

  5. 5

    ドジャースが村上宗隆獲得へ前のめりか? 大谷翔平が「日本人選手が増えるかも」と意味深発言

  1. 6

    「日中戦争」5割弱が賛成 共同通信世論調査に心底、仰天…タガが外れた国の命運

  2. 7

    レーダー照射問題で中国メディアが公開した音声データ「事前に海自に訓練通知」に広がる波紋

  3. 8

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  4. 9

    松岡昌宏も日テレに"反撃"…すでに元TOKIO不在の『ザ!鉄腕!DASH!!』がそれでも番組を打ち切れなかった事情

  5. 10

    巨人が現役ドラフトで獲得「剛腕左腕」松浦慶斗の強みと弱み…他球団編成担当は「魔改造次第」