「真珠のボタン」が意味する歴史の悲劇

公開日: 更新日:

 何の予備知識もないまま映画館に入って、場内の明かりが消えたとたん、ふと予感にみちた胸の高鳴りを覚えることがある。

 そんな忘れてひさしい歓喜をいま味わわせてくれるのが、現在都内で2本立て公開中のドキュメンタリー作品「光のノスタルジア」と「真珠のボタン」だ。

 南米チリのアンデス山麓にあるアタカマ砂漠は世界中の天文学者に仰がれる天体観測の聖地。その神秘的な眺めから始まる「光――」は、まるで自然科学の記録映画のよう。

 他方「真珠――」も西パタゴニアの美しい海景から始まり、流麗な水の流れに目がうるおうのを覚える。

 ところが両作品ともなめらかな語り口に導かれるまま、ふと気づくと話はかつての悪名高いピノチェト独裁政権による虐殺と弾圧の故事になり、また先住民制圧の暴力的な歴史が描かれるのだ。

 なにしろアタカマ砂漠の砂の中から発掘される奇妙な物体の正体に気づいたときの息をのむ衝撃といったら――! 「真珠のボタン」という言葉が意味する歴史の悲劇すら、深くて重い美しさをたたえているのだ。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    横浜流星「べらぼう」ついに8%台に下落のナゼ…評価は高いのに視聴率が伴わないNHK大河のジレンマ

  4. 4

    ドジャース佐々木朗希「今季構想外」特別待遇剥奪でアリゾナ送還へ…かばい続けてきたロバーツ監督まで首捻る

  5. 5

    中日・中田翔がいよいよ崖っぷち…西武から“問題児”佐藤龍世を素行リスク覚悟で獲得の波紋

  1. 6

    元横綱白鵬が突然告白「皇帝の末裔」に角界一同“苦笑”のワケ…《本当だったらとっくに吹聴しています》

  2. 7

    元横綱白鵬 退職決定で気になる「3つの疑問」…不可解な時期、憎き照ノ富士、親方衆も首を捻る今後

  3. 8

    阿部巨人の貧打解消策はやっぱり助っ人補強…“ヤングジャイアンツと心中”の覚悟なし

  4. 9

    山本舞香は“ヤンキー”より“令嬢”がハマる?「波うららかに、めおと日和」《ふかふみコンビ》で人気急上昇

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも