「ゲルダ」イルメ・シャーバー著、高田ゆみ子訳

公開日: 更新日:

 戦争報道写真として最も有名な「崩れ落ちる兵士」を撮ったのは、ロバート・キャパではなく、彼女だったのかもしれない。女性写真家のパイオニアともいうべきゲルダ・タロー。だが、没後はキャパの恋人としてのみ扱われ、写真史から排除された。粘り強い取材で彼女の生涯を追ったこの評伝には、「写真家ゲルダ」の正当な評価を願う作者の思いが込められている。

 1910年、ドイツのシュツットガルトに生まれたゲルダはユダヤ人。22歳のとき、ナチスドイツから逃れるため、単身パリに亡命し、キャパと出会う。

 彼の仕事をサポートするうち、自らもカメラを持つようになり36年、内戦下のスペインへ。2人は対等なパートナーとして前線の取材に臨み、ゲルダは勇敢な女性写真家としてキャリアを確立していく。しかし、前線の混乱の中、27歳の誕生日を目前に、味方の戦車にひかれるという無残な事故で命を落とす。フランス共産党はゲルダを「反ファシストのジャンヌダルク」としてシンボル化し、盛大な葬儀を行った。

 その後、キャパの名声が高まるのに反比例するかのように、ゲルダの写真は忘れ去られ、あるいはキャパの作品と混同されていく。第2次世界大戦中、ドイツに残っていたゲルダの家族は全員、ホロコーストによって抹殺された。悲劇的な生涯だが、実際のゲルダは奔放で愛らしく、常に複数の男性に愛されていた。伝統的なモラルにとらわれない新しい女性として、短い生涯を生き切った。

 収録された多くの写真がゲルダの写真家としての力量を物語る。巻末に、キャパの実像を追い続けてきた沢木耕太郎による解説「旅するゲルダ」を掲載。(祥伝社 2100円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  2. 2

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  3. 3

    さすがチンピラ政党…維新「国保逃れ」脱法スキームが大炎上! 入手した“指南書”に書かれていること

  4. 4

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  5. 5

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  1. 6

    中日からFA宣言した交渉の一部始終 2001年オフは「残留」と「移籍」で揺れる毎日を過ごした

  2. 7

    有本香さんは「ロボット」 どんな話題でも時間通りに話をまとめてキッチリ終わらせる

  3. 8

    巨人は国内助っ人から見向きもされない球団に 天敵デュプランティエさえDeNA入り決定的

  4. 9

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  5. 10

    佐藤輝明はWBC落選か? 大谷ジャパン30人は空前絶後の大混戦「沢村賞右腕・伊藤大海も保証なし」