著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「血の極点」ジェイムズ・トンプソン著、高里ひろ訳

公開日: 更新日:

 フィンランドの警察小説シリーズの第4弾だが、これほど異色のシリーズも珍しいだろう。というのは第1作「極夜」は北極圏の小さな町を舞台にした警察小説だったが、第2作「凍氷」で主人公のカリ・ヴァーラ警部が首都ヘルシンキに移ったかと思うと、第3作「白の迷路」では国家捜査局で特殊部隊を指揮するまでになる。

 この特殊部隊が何をしているかというと、犯罪組織を撲滅しているのだが、このあとが凄まじい。麻薬や金を奪ってしまうのである。文字通りの強奪だ。その上がりの一部を、国家警察長官と内務大臣に渡すけれど、あとは特殊部隊が自分たちのものにするから、驚く。超法規的な活動を彼らは許されているとの設定なのである。地味な捜査活動を描く第1巻から、ど派手な非合法活動を描く第3巻まで、これほど激しい変化をみせたシリーズも前代未聞といっていい。

 本書はその第3巻で激しく変化したカリ・ヴァーラ警部のその後を描いていくが、武器オタクでハッカーのミロと、童顔の巨人アルコール依存症のスロという2人の部下を率いて、特殊部隊の活動はますますエスカレートしていく。今回は、国家警察長官と内務大臣をまとめて殺しちゃおうかとまで言いだすのだ。どこまで行くんだおまえたち。

 その反権力の姿勢は、ヘルシンキの大藪春彦といっていいが、著者急逝のため、この第4部が最終編となったのは残念である。(集英社 840円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    冷静になれば危うさばかり…高市バブルの化けの皮がもう剥がれてきた

  2. 2

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  3. 3

    大関取り安青錦の出世街道に立ちはだかる「体重のカベ」…幕内の平均体重より-10kg

  4. 4

    藤川阪神で加速する恐怖政治…2コーチの退団、異動は“ケンカ別れ”だった

  5. 5

    維新・藤田共同代表に自民党から「辞任圧力」…還流疑惑対応に加え“名刺さらし”で複雑化

  1. 6

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  2. 7

    小野田紀美経済安保相の地元を週刊新潮が嗅ぎ回ったのは至極当然のこと

  3. 8

    前田健太は巨人入りが最有力か…古巣広島は早期撤退、「夫人の意向」と「本拠地の相性」がカギ

  4. 9

    「しんぶん赤旗」と橋下徹氏がタッグを組んだ“維新叩き”に自民党が喜ぶ構図

  5. 10

    歪んだ「NHK愛」を育んだ生い立ち…天下のNHKに就職→自慢のキャリア強制終了で逆恨み