やっぱり郵政民営化は郵政私物化であり、郵政米営化だった

公開日: 更新日:

「『ゆうちょマネー』はどこへ消えたか」菊池英博、稲村公望著/彩流社

 郵政民営化から10年が経過した。小泉構造改革の本丸と言われ、当時の御用学者たちは、郵政民営化によって日本経済にバラ色の未来がやってくると口を揃えた。

 ところが、日本経済に何の効果もないどころか、郵政事業は、民営化後、じり貧状態を続けている。そして何より、国民に感じられるメリットというのが、何ひとつないというのが実態だろう。地方部では、むしろサービスが低下しているのが実情だ。

 それは、一体なぜなのか。本書は、一貫して郵政民営化を批判し続けてきた経済学者の菊池英博氏と元郵政官僚の稲村公望氏の共著だが、2人の見解は、ほぼ同じだ。

 郵政民営化は、郵政私物化であり、郵政米営化だったというのだ。

 かつての国鉄と異なり、郵政事業は、赤字を出していたわけではない。だから、当然、事業に税金はつぎ込まれておらず、財政面からの改革の必要などなかった。

 だが、郵政を食い物にしようとする財界にとっては、どうしても郵政事業にくさびを打ち込みたかったようだ。例えば、かんぽの宿は、再三の中止助言があったにもかかわらず、オリックス不動産に安値で一括売却された。ゆうちょ銀行が発行するクレジットカードは、三井住友銀行に業務委託されたが、選定を担当したのは三井住友カード出身の社員だった。人材派遣会社のザ・アールが受託する研修業務の件数が民営化後激増した。

 オリックスグループ議長の宮内義彦氏、三井住友銀行頭取の西川善文氏、ザ・アール社長の奥谷禮子氏(いずれも当時)は、小泉構造改革推進の立役者だ。彼らが、郵政の利権を貪ったというのが「私物化」だ。

 そして、「米営化」というのは、ゆうちょマネーを米国の資金繰りに使いたいという米国の思惑だ。米国は、90年代から、ゆうちょと簡保の民営化を強く要求してきた。すでに、郵政は、リスクの高い米国債での運用に傾いているが、著者は、まだこちらのほうは、ブレーキがかけられるという。ゆうちょと簡保の株式売却を凍結すればよいというのだ。政府系金融機関の株式売却が凍結されようとしているいま、同じことをやればよいのだ。本書は、郵政民営化の真実が分かる好著だ。

★★半(選者・森永卓郎)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のBOOKS記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    平野紫耀はタッキー新会社に? キンプリ永瀬廉と高橋海人“2人体制”番組続々発表にファン動揺

    平野紫耀はタッキー新会社に? キンプリ永瀬廉と高橋海人“2人体制”番組続々発表にファン動揺

  2. 2
    中村倫也&水卜アナ“新婚公開のろけ”が「ほっこり」から「さすがにくどい」に変わった瞬間

    中村倫也&水卜アナ“新婚公開のろけ”が「ほっこり」から「さすがにくどい」に変わった瞬間

  3. 3
    中村倫也の“水卜アナいじり”がモラハラ気味でプチ炎上も…女性からは擁護が圧倒的なワケ

    中村倫也の“水卜アナいじり”がモラハラ気味でプチ炎上も…女性からは擁護が圧倒的なワケ

  4. 4
    ガーシー容疑者側が地元警察に「オカン」の警護要請 ガサ入れ痛烈批判の裏に見るツラの皮

    ガーシー容疑者側が地元警察に「オカン」の警護要請 ガサ入れ痛烈批判の裏に見るツラの皮

  5. 5
    山口達也さんの“再出発”に賛否…TOKIOを連想させる「社名」にドン引きするファンも

    山口達也さんの“再出発”に賛否…TOKIOを連想させる「社名」にドン引きするファンも

  1. 6
    NHK武田真一、朝日ヒロド歩美が局退社へ…2人を待ち受ける“フリーアナ戦線”の苛烈

    NHK武田真一、朝日ヒロド歩美が局退社へ…2人を待ち受ける“フリーアナ戦線”の苛烈

  2. 7
    氷川きよし“Kiina”正式改名と独立復帰を阻むもの…支えてくれた母へ故郷で親孝行の日々

    氷川きよし“Kiina”正式改名と独立復帰を阻むもの…支えてくれた母へ故郷で親孝行の日々

  3. 8
    バウアーが右肩の張りで“案の定”実戦登板先送り DeNA加入はもしや「メジャー復帰」へのリハビリ?

    バウアーが右肩の張りで“案の定”実戦登板先送り DeNA加入はもしや「メジャー復帰」へのリハビリ?

  4. 9
    JGTO青木会長「あと1年やらせてもらいます」の舌足らず…“クーデター仕掛け人”は退場、空中分解の男子ゴルフ

    JGTO青木会長「あと1年やらせてもらいます」の舌足らず…“クーデター仕掛け人”は退場、空中分解の男子ゴルフ

  5. 10
    西武・源田壮亮やはり無念の離脱…松井監督も苦悩する「WBC制覇」の大きすぎる代償

    西武・源田壮亮やはり無念の離脱…松井監督も苦悩する「WBC制覇」の大きすぎる代償