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ストレスを吹き飛ばすミステリー&サスペンス特集

「<ミリオンカ>の女」高城高著

 環境が変わり何かと忙しいこの季節。疲れがたまれば五月病にもなりかねない。そこで今回は、謎が謎を呼ぶ急展開やどんでん返しでハラハラ、ドキドキさせてくれる、読み応えたっぷりの濃厚ミステリー&サスペンス5冊を紹介。読書でストレスを吹っ飛ばそう!



 日本ハードボイルド界の大ベテランが、日露戦争前夜のウラジオストクで生き抜くひとりの日本人女性を描いた物語。

 時は1892年。日本郵船の肥後丸は、ロシア帝国極東の玄関口であるウラジオストクを目指して運航していた。その吹きさらしの甲板に、美しい日本人の令嬢が立っている。まだ20代半ばの年齢に見えるが、それよりはるか年上の動ずることないまなざしで、じっと海を見つめていた。

 彼女は、ウラジオストクに商会を構えるグレゴーリィ・ペトロフの娘だった。とはいえ、洗礼を受けてロシア国籍となり養女に迎えられたのはわずか数年前のこと。それまでは、日本人の養い親がつけた“浦潮吟”という名前で生きてきた。その養い親は、妓楼「日之出楼」の経営者。吟は幼いころから娼妓として生きる人生を余儀なくされてきたのだ。

 当時のウラジオストクは、多民族が混在する都市であり、軍都でありながら治安は劣悪だった。そんなウラジオストクで生き抜いてきた元娼妓の吟は、なぜこの地に戻ってきたのか。著者による名作「函館水上警察―ウラジオストクから来た女」の“正編”でもある物語だ。

(寿郎社 2200円+税)

「コンタミ」伊与原新著

 生命科学を専攻する大学院生の圭は、ある日、指導教員の宇賀神のお供として国立理系大学のトップとして君臨する東都工科大学を訪れる。理論物理学者の蓮見教授に呼び出されたためだ。蓮見教授は、桜井美冬という女性を捜しているという。彼女は、宇賀神の同期の研究者であり、また思い人でもあった。

 しかし、美冬は2年前に突然渡米し、1年前からは連絡がつかなくなっていた。蓮見によれば、美冬はすでに帰国しており、ある企業で働いているはずだという。その企業名は「Versatile Deep―sea Yeasts」の頭文字を取って「VEDY」。直訳すると「万能深海酵母群」で、水質改善から土壌改良、果ては放射能除去からがんまで治すというニセ科学商品に用いられ、市場に出回っていた。美冬はその「VEDY」の開発ユニットリーダーとして暗躍していると蓮見は言うのだ。

 ニセ科学を誰よりも嫌っていたかつての美冬を知っている宇賀神は、美冬の潔白を証明すべく、圭と共にその足取りを追うが……。

 東京大学大学院の理学系研究科出身の著者が科学者たちの理性と葛藤を浮き彫りにする、あまりにもリアルなサイエンスサスペンスだ。

(講談社 1550円+税)

「月の炎」板倉俊之著

 一ノ瀬弦太は小学5年生。今日、何十年かに1度起こるという皆既日食をクラス中で楽しみにしている。しかし、ひとりだけ浮かない顔をしているクラスメートがいた。動物好きの茜ちゃんだ。つい5日ほど前、飼育係だった彼女がウサギ小屋の鍵をかけ忘れたことで、ピョンタという名のウサギが逃げてしまったのだ。

 何とか茜ちゃんを元気づけたい弦太だが、その飼育小屋が不審火によって全焼してしまう。親友の涼介らとともに、愛読書の「ちびっこ探偵」よろしく捜査活動を開始して放火犯を捕まえようとする弦太。物語の前半は、このように少年らしいほのぼのとしたストーリーが展開されていく。

 しかし、後半になると一転して、事件の核心に迫る息詰まる展開が待ち受けている。前半にちりばめられていた、複雑に絡み合う伏線にも気づかされる。少年の成長を描く青春小説であり、また、ミステリー小説としての読みごたえもたっぷりだ。

 本作の著者は、お笑いコンビ「インパルス」の板倉俊之。2009年に初作品「トリガー」を発表し、12年には本格ミステリーの「蟻地獄」を上梓している。コントの名手が描く、切なくも優しい物語である。

(新潮社 1600円+税)

「乗客ナンバー23の消失」セバスチャン・フィツェック著 酒寄進一訳

 ドイツミステリー界の寵児によるサスペンスエンターテインメント。豪華客船の中で起こる陰惨な事件に震え上がりつつ、無数にちりばめられた謎の数々に翻弄される。

 主人公のマルティンは、おとり捜査に従事する警察官。捜査のためならHIV抗体の注射ですら進んで受ける、恐怖とは無縁の男だ。彼の心は、5年前に妻子が死んでから壊れてしまっていた。しかも死の原因は、豪華客船「海のスルタン号」で旅に出た妻が息子を海に落とし、自分も身を投じて自殺したというものだった。

 しかしあるとき、彼の元に不審な人物から着信があり、今すぐに「海のスルタン号」に来いという。電話の主は、分譲型客室に住む老女ゲリンデル。彼女はマルティンに、彼の妻子は生きているかもしれないと言い、薄汚れたテディベアを差し出す。それは紛れもなく息子ティムのものであり、この船で2カ月前に行方不明となった少女が突如姿を現し、そのときに手に持っていたものだという。そして、少女の母親は依然として行方不明のままだと話す。

 仕事をなげうち船に乗り込んだマルティンは、現在進行形で発生する新たな失踪事件に巻き込まれていく。

(文藝春秋 2250円+税)

「レッドリスト」安生正著

 想定できない破壊力で自然が人間を襲う。その恐ろしさを私たち日本人はよく知っている。本作で描かれるパンデミックもいつか現実になるかも知れず、背筋が凍る思いだ。

 すべての始まりは、東京が記録的な寒波に襲われていた12月5日。虎ノ門中央病院には、劇症の疾患を発症した急患が続々と運び込まれていた。症状は舌のもつれ、顔面の強い引きつり、痙攣と歩行障害など破傷風に似ており、患者はいずれも高級住宅街に住むセレブたちだった。さらに、六本木にある3つの企業からは、痙攣や血圧低下、意識障害を起こした患者が運び込まれ、死亡者も出る事態となった。無数の吸血ヒルが市民を襲い、ホームレスが狂犬病を発症するなど、パニック状態に陥る東京。そして、東京メトロの構内からは複数の切断遺体が発見されるという事件まで勃発する。原因究明にあたる厚生労働省の降旗一郎と国立感染症研究所の都築裕は、やがて人間がつくり出した環境で進化を遂げた、ごくありふれた“ある生物”の存在に行き当たる。

 東京が前代未聞の恐怖に襲われるパニックサスペンス。読後に“ある生物”を目にしたら、間違いなく逃げ出したくなる。

(幻冬舎 1500円+税)

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