東京街歩きを楽しむ本特集

公開日: 更新日:

 桜も終わり、一気に春が到来。散歩に最適の季節となった。東京で新生活を始めた人にも、環境に慣れるために、まずは街を歩くことをおすすめしたい。そこで今週は、さまざまなタイプの街歩きを楽しむための道しるべとなってくれる本を紹介する。

 災害や戦災、そして繰り返される開発にさらされてきた東京の街並みだが、今も「いにしえの姿や歴史の流れを今に伝えている痕跡」が至るところに存在しているという。普段、歩いているだけではなかなか気づかない、そんな幻のようなスポットを紹介してくれる街歩きのための格好の副読本。

 同じ境内に近代的なタワー建築と、都内では珍しい銅製の鳥居(文政4<1821>年)など江戸時代の名残が共存する虎ノ門の「金刀比羅宮」をはじめ、平安時代の武士・源経基が衣を掛けたとの逸話が伝わる「麻布の一本松」、現在のJR有楽町駅前にかつてあった南町奉行所の石垣石を再利用したベンチ、関東大震災の教訓から木造建築に銅板を張り付けた昭和初期の建物で営業を続ける神田「栄屋ミルクホール」など。過去と現代をつなぐタイムマシンのような81スポットを写真付きで案内。

(河出書房新社 1400円+税)

「凹凸を楽しむ 東京『スリバチ』地形散歩 多摩武蔵野編」皆川典久、真外康之著

 関東平野西部の荒川と多摩川に挟まれた広大な武蔵野台地の段丘面に刻まれた谷地やくぼ地を、その形状的特徴から「スリバチ」と名付け、偏愛する著者らによる地形散歩案内シリーズ。第3弾の本書では、多摩地域と23区西部エリアの一部を歩く。

 多摩武蔵野は、丘陵にはスリバチ地形、台地には段丘面の形成の歴史によってできたいくつかの崖。その崖には釜状にスリバチ地形になっている場所があるなど、さまざまな地形のバリエーションが楽しめるという。そんな多摩武蔵野の地形散歩の楽しみのひとつが湧き水探しだ。吉祥寺の井の頭公園にある井の頭池(写真)と、善福寺池、三宝寺池という武蔵野3大湧水池をはじめ、武蔵野台地の武蔵野面と立川面の境界にある段丘崖の連なり「国分寺崖線」沿いの深大寺や小金井を巡る探索など、15エリアを取り上げる。

 (洋泉社 2200円+税)

「東京まちなか超低山」中村みつを/絵と文

 ビルの谷間や閑静な住宅街の一角に鎮座する「見ようとしなければ見えてこない都会の山」を「超低山」と名付け、その魅力をつづったイラストガイドブック。

 都心の「超低山」は、大名庭園に代表される「築山」、山岳信仰から生まれたミニチュア富士山の「富士塚」、そして「天然の山」の3つに大きく分けられる。

 港区の「愛宕山」は標高約26メートルながら、天然の山としては23区内最高峰。急勾配の「出世の石段」からまさかのエレベーターまで、頂上まで6ルートもあり、その日の気分で選べる。

 その他、文京区の六義園内にある築山「藤代峠」(標高35メートル)や、現存する都内最古の富士塚である渋谷区の「千駄ケ谷富士」(高さ約6メートル)など。都内超低山100名山からえりすぐりの23座や「東京アルプス」など5つの「縦走」コースを紹介。

 平均2、3分で登頂できてしまう超低山登山を取り入れれば、散歩のバリエーションも豊かになること間違いなし。

(ぺりかん社 1800円+税)

「ぶらぶらミュージアム」大田垣晴子著

 首都圏のミュージアムを訪ね歩く体験イラストルポ。

「2・26事件」の現場となった高橋是清邸など30棟の歴史的建造物を移築して展示する「江戸東京たてもの園」(小金井市)は、ほとんどの建物に実際に上がることができるので、お宅拝見気分で見て回ることができるとか。

 その他、明治から昭和にかけての挿絵を中心にコレクションする「弥生美術館」(文京区)や、随所からその人の生き方が見えてくるという林芙美子の終の住処をそのまま保存した「林芙美子記念館」(新宿区)など45館を案内。

 もちろん、国立科学博物館など公共の大規模館も網羅しているが、不定期に行われる見学会に参加してようやく内部を見ることができた、芸術家がつくった集合住宅「三鷹天命反転住宅インメモリーオブヘレン・ケラー」(三鷹市)など、ちょっと趣向が変わった体験まで。

 アートなお散歩も楽しそう。

(交通新聞社 1300円+税)

「重ね地図でわかる 東京・首都圏 未来予想図」別冊宝島編集部編

 東京とその周辺では、オリンピック・パラリンピック開催に向けて急ピッチで再開発が進んでいる。本書は、特に開発が著しいエリアを取り上げ、現在の地図に、2025年までの再開発の予定を記した特製未来地図を重ね合わせ、再開発後の姿を描き出す都市計画案内本。

 まずはメインスタジアムとなる新国立競技場周辺に着目。JR各駅や、秩父宮ラグビー場や神宮球場の改修計画を紹介。さらに駅と周辺地区を一体的につくり直す「百年に一度」とも呼ばれている渋谷の再開発事業などの詳細を含む「千駄ケ谷~原宿~渋谷エリア」を解説。その他、敷地面積2万平方メートルにおよぶ広大な土地に2棟の高層ビルが建築される大手町など、エリア別に都市計画・開発計画の全貌をCGを駆使して紹介。

 不動産・建築関係者はもちろん、変わりゆく東京の今の姿を目に焼き付けておきたい散歩人にもおすすめ。

 (宝島社 1100円+税)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  3. 3

    クマ駆除を1カ月以上拒否…地元猟友会を激怒させた北海道積丹町議会副議長の「トンデモ発言」

  4. 4

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  5. 5

    クマ駆除の過酷な実態…運搬や解体もハンター任せ、重すぎる負担で現場疲弊、秋田県は自衛隊に支援要請

  1. 6

    露天風呂清掃中の男性を襲ったのは人間の味を覚えた“人食いクマ”…10月だけで6人犠牲、災害級の緊急事態

  2. 7

    高市自民が維新の“連立離脱”封じ…政策進捗管理「与党実務者協議体」設置のウラと本音

  3. 8

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 9

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  5. 10

    引退の巨人・長野久義 悪評ゼロの「気配り伝説」…驚きの証言が球界関係者から続々