著者のコラム一覧
永井義男作家

1949年、福岡県生まれ。東京外国語大学卒。97年「算学奇人伝」で第6回開高健賞受賞。「影の剣法」などの時代小説の他、ノンフィクションの「江戸の下半身事情」「図説 大江戸性風俗事典」など著書多数。

「骨と墓の考古学」谷畑美帆著

公開日: 更新日:

 遺跡の発掘や骨の出土と聞くと、すぐに縄文時代などが連想されるのではあるまいか。

 ところが、本書は江戸の遺跡について、しかも、人骨についてである。

 これまで、日本の土壌は酸性のため、遺跡などでも人骨は残りにくいとされていた。ところが、江戸の墓の跡からは良好な状態で骨が出土する。これは、墓地の多くが低湿地で、水分が多いからだという。

 これまで、東京の再開発に伴う武家屋敷の遺構の発掘で、出土するのはもっぱら欠けた陶器やクシなど、生活の品々だと思っていた。ところが、各地で人骨が出土し、分析されていたのである。特に、かつて寺が多かった港区一帯では、人骨が数十~数百の単位で出土するのは珍しくないとか。

 分析技術の向上もあって、こうして出土した人骨から、江戸時代の人々の生活や健康状態など、さまざまなことがわかってきた。

 たとえば、骨折の治療がある。骨を鑑定すると江戸の町の人々は、骨折してもきちんと固定治療をされていたため、変形はほとんどない。ところが、適切な治療を受けていない地方の人々の骨では、治癒後の変形が認められるという。

 また、乳幼児の死亡率が高かったことは知られているが、骨を観察する限り、貴賤は問わなかったようだ。さらに、江戸市民の1割前後は梅毒に感染していたらしい。

 さて、怪奇小説などで屍蝋は蠱惑的に描かれているが、江戸時代の遺構からは屍蝋化した遺体がしばしば出土するという。

 著者によると、屍蝋を見るとさまざまな解明への期待で「ややワクワクする」が、「すごいのが臭いだ」そうだ。この臭いを嗅ぐと、その後しばらく食欲が低下するという。

 そんな体験ができる著者は、ある意味うらやましい。(KADOKAWA 920円+税)

【連載】Oh! 江戸散歩

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