「ガンより怖い薬剤耐性菌」三瀬勝利、山内一也著

公開日: 更新日:

 現在、世界のがんによる死亡者数は年間880万人といわれているが、2050年にはがんを凌駕して年間1000万人が死亡すると推定されている病がある。それは、薬剤耐性菌による感染症だ。日本でも、がんと心疾患に続き、肺炎が死亡原因の第3位となっている。高齢化もさることながら、肺炎球菌などに抗菌薬が効かなくなっていることも要因のひとつであるという。

 薬剤耐性菌の暴走をもたらしているのが、過剰な抗菌薬、消毒薬、及び抗菌グッズなどの使用である。抗菌薬は多くの感染症を制圧してきたことも事実だが、一方では先進国を中心にさまざまな感染症を蔓延させ、重症化させている。肺炎をはじめとする呼吸器感染症はもとより、淋病や性器クラミジアなどの性感染症、髄膜炎や脳炎、O157やノロウイルス、そしてコレラ菌までも暴れ出す可能性があると本書は警告している。

 さらに感染症だけでなく、抗菌薬によって体内の有益な微生物が駆逐されることで起こる健康被害も懸念されている。例えば、2010年時点でアメリカでは国民の30%が肥満に、そして12人に1人が喘息になっているという報告があり、これらの患者には抗菌薬の服用者が非常に多いのだという。また、若年性の炎症性腸疾患を発症した子供は、健康な子供に比べて抗菌薬を投与された割合が84%も高いそうだ。近年の研究では、自閉症と抗菌薬使用の関係性も指摘されている。

 その抗菌薬は本当に必要か。使用前に考える必要がありそうだ。 (集英社 840円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元小結・臥牙丸さんは5年前に引退しすっかりスリムに…故国ジョージアにタイヤを輸出する事業を始めていた

  2. 2

    ドジャース大谷翔平に「不正賭博騒動」飛び火の懸念…イッペイ事件から1年、米球界に再び衝撃走る

  3. 3

    遠野なぎこさんは広末涼子より“取り扱い注意”な女優だった…事務所もお手上げだった

  4. 4

    ヘイトスピーチの見本市と化した参院選の異様…横行する排外主義にアムネスティが警鐘

  5. 5

    ASKAや高樹沙耶が参政党を大絶賛の一方で、坂本美雨やコムアイは懸念表明…ネットは大論争に

  1. 6

    巨人・田中将大「巨大不良債権化」という現実…阿部監督の“ちぐはぐ指令”に二軍首脳陣から大ヒンシュク

  2. 7

    世良公則、ラサール石井…知名度だけでは難しいタレント候補の現実

  3. 8

    自民旧安倍派「歩くヘイト」杉田水脈氏は参院選落選危機…なりふり構わぬ超ドブ板選挙を展開中

  4. 9

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  5. 10

    フジの「ドン」日枝久氏が復権へ着々の仰天情報! お台場に今も部屋を持ち、車も秘書もいて…