「砂浜に坐り込んだ船」池澤夏樹著
朝刊に嵐で石狩湾の浜辺に座礁したベトナムの貨物船の写真が掲載されていた。5000トンもの船は、砂の上に坐り込んでいるように見える。現地まで足を運ぶと、座礁した船は美しかった。ふと、この光景を誰かと見るとしたら誰だろうとの思いがよぎる。
夜、撮影した船の写真を家で見ていると、ふと隣に「きみ」がいることに気づいた。久しぶりに会うきみは、こちらが気づかない間も、時々、様子を見に来ていたらしい。今日も一緒に座礁船を見ていたという。とりとめのない昔話をしていると、つい話題は亡くなった彼の母親に及ぶ。
6年前に亡くなった友人との思い出を描くこの表題作をはじめ、悲しみを乗り越える人々を包み込む9つの物語を収録。
(新潮社 490円+税)