「地球星人」村田沙耶香著

公開日: 更新日:

「コンビニ人間」で芥川賞を受賞した作家の最新作。物語は主人公・奈月の少女時代から始まる。小学校5年生の夏休み、奈月は長野の山村にある祖父母の家を家族と訪れた。

 お盆に大勢集まる親戚の中に、いとこの由宇がいる。2人は秘密を教え合った恋人同士。自分が魔法少女であることを打ち明けた奈月に、由宇は言った。「僕、もしかしたら宇宙人かもしれないんだ」。2人は針金で作った指輪を交換し、誰にも内緒で結婚する。そして約束する。「なにがあってもいきのびること」

 おとぎ話のように始まった物語は、異世界に踏み込んでいく。地球星人が暮らしているのは人間を作る「工場」の中。そこにはぎっしりと人間の巣が並んでいる。恋は繁殖するために人間が作った脳内麻薬で、子宮は人間工場の部品。働いて、結婚して、繁殖するという社会のシステムに馴染めない自分は異星人。そう思ったまま大人になった奈月は、同じ違和感を持つ男と結婚する。恋もセックスもない共同生活。工場側の地球星人たちは、そんな仮面夫婦を許さない。現実にもこんな夫婦は多くいそうでリアル。

 懐かしい山村に逃避した2人は、やはり生きにくさを抱えて大人になった由宇と再会、3人の間に奇妙な絆が生まれる。

 山村に孤立した3人は、生き延びるために何をしたか。ホラーじみた驚愕の結末へと爆走する。

(新潮社 1600円+税)


【連載】ベストセラー読みどころ

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘