著者のコラム一覧
江 弘毅編集集団「140B」取締役編集責任者

1958年、大阪・岸和田市生まれ。「ミーツ・リージョナル」の創刊に携わり12年間、編集長を務める。現在は編集集団「140B」の取締役編集責任者。神戸松蔭女子学院大学教授。著書に「『街的』ということ」「K氏の大阪弁ブンガク論」ほか多数。

「大坂堂島米市場」高槻泰郎著

公開日: 更新日:

 商品先物取引などやったこともないし、なんやようわからん、勝ち逃げ称賛のばりばりの金融資本主義と違うのだろうか。

 そう思うのだが、「売りたい時に売れない、あるいは買いたい時に買えない状態を、当時の人は『手狭』と表現している。『手狭』は大坂商人が嫌った言葉で、その対義語が『手広』である」。

「手狭」「手広」という大阪弁をつかってそう説明される。「手広」く商いをしたいから、現金と米切手をやりとりするのではなく、「売りと買いの約束」を取り交わすことの取引があればよいのではないか。この発想が「帳合米商い」の原点である。今の言葉なら「流動性の高い市場」なのか。一気に分かるような気がするのは自分が大阪弁話者だからだろうか。

 その現場、堂島、中之島あたりを、

「上部を流れる大河が大川(淀川)で、中之島と呼ばれる中洲によって堂島川(北)と土佐堀川(南)に分かれる。中之島北部にかかる大江橋と渡辺橋の間に『米市場』と書いてある場所こそ堂島米市場であり、現在は記念碑が建っている」

 と、「江戸時代のウォール街」といった見出しで書かれ、見開き地図付きで解説しているが、何を隠そう今キーボードを叩いているわたしのオフィスは大江橋北詰にある。だからとてもリアルに伝わってくる。

 いまも商社や銀行が立ち並ぶ関西屈指のビジネス街。本に挿入されている「浪花名所図会」などの様子はすっかり様変わりしているが、売買に際して買いを「取ろう取ろう」、売りを「やったやった」と声が飛び交ったとされる大阪弁は続いているのだ。

 人口成長が停滞していた江戸中期以降、米がとれすぎると輸出もできず、直ちに米価下落につながる鎖国構造で、幕府が米価を安定的に上昇ないし維持しようとする「買米令」の顛末など、マーケットと政府の押し合いへし合いが大坂・堂島を舞台に繰り広げられたさまざまな記録。これが圧巻だ。

(講談社 900円+税)


【連載】上方風味 味な本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    横浜・村田監督が3年前のパワハラ騒動を語る「選手が『気にしないで行きましょう』と…」

  2. 2

    文春が報じた中居正広「性暴力」の全貌…守秘義務の情報がなぜこうも都合よく漏れるのか?

  3. 3

    大の里&豊昇龍は“金星の使者”…両横綱の体たらくで出費かさみ相撲協会は戦々恐々

  4. 4

    渡邊渚“初グラビア写真集”で「ひしゃげたバスト」大胆披露…評論家も思わず凝視

  5. 5

    5億円豪邸も…岡田准一は“マスオさん状態”になる可能性

  1. 6

    カミソリをのみ込んだようなのどの痛み…新型コロナ「ニンバス」感染拡大は“警戒感の薄れ”も要因と専門家

  2. 7

    萩生田光一氏に問われる「出処進退」のブーメラン…自民裏金事件で政策秘書が略式起訴「罰金30万円」

  3. 8

    さらなる地獄だったあの日々、痛みを訴えた脇の下のビー玉サイズのシコリをギュッと握りつぶされて…

  4. 9

    参政党・梅村みずほ議員の“怖すぎる”言論弾圧…「西麻布の母」名乗るX匿名アカに訴訟チラつかせ口封じ

  5. 10

    辻希美“2億円豪邸”お引っ越しで「ご近所トラブル」卒業 新居はすでに近隣ママの名所