「おかしな生きもの写真館」ポール・ジョインソン・ヒックス、トム・サラム編著、岡田悠佳子ほか訳

公開日: 更新日:

 表紙に写っている動物は、まるで雪原に頭からダイブして突き刺さり、身動きが取れなくなってしまったかのようなアカギツネ。雪の下のネズミの気配を察知して、捕獲しようとして失敗したところらしい。また別のページでは、滝を登ろうと水面から飛び出たニジマスをくわえようとしたが、逃げられ悔やんでいるようにしか見えないヒグマがいる。

 こうした野生動物のユーモラスなしぐさや表情をとらえた写真を集めた作品集。タンザニアに暮らし、その自然と動物たちの保護に尽力する野生動物写真家の編者ポール・J・ヒックスが創設した「野生動物ユーモア写真大賞」の応募作3500点から選りすぐりを集めた一冊だ。

 子どもが見てはいけない場面に出くわし、思わず羽で子供の目をふさいだかのように見える親鳥と、その羽の隙間からちゃっかりのぞく小鳥というコントのようなインドの「ツチイロヤブチメドリ」親子。

 落ち込んだ友達の肩に手を回し励ましているかのような「アマガエル」コンビ、プロポーズでもする予定なのか一輪の花を大事そうにかかえデート相手をまっているかのような「ハタリス」など。

 もちろん、当の動物たちにはそんなつもりはないのだろうが、見ているだけで、思わずニヤリとしたり、ほんわかと心が温かくなる動物たちの姿に心身のコリがほどけていくようだ。

 日本人にはおなじみの長野県地獄谷で温泉につかるニホンザルの写真もある。湯の中から出した手がどこかを指さしている写真に「サウナはあちら」とまるで猿が発したかのようなコメントがつく。編者らによって各作品に添えられたこのような痛快一言コメントが、写真を一段と面白くしている。

 野生動物たちは、たびたび越境して人間たちの社会に紛れ込む。

 決して連れションはしたくないが、今まさに用を足してきたかのように公衆トイレからスッキリした顔で出てくる体長3メートルの「コモドオオトカゲ」や、時速制限40マイルの交通標識の前でどうすればいいのか考え込んでいるような俊足のチーター(トップスピードは時速60~70マイル)、遊泳禁止の看板の前で堂々と水に飛び込もうとしている「アカハシリュウキュウガモ」など。時として動物たちが見せる行動は、まるで人間をからかっているかのようだ。その楽しさを分かち合いたくて誰かについつい見せたくなる。

 こうした動物たちの自然なしぐさがなぜユーモラスに見えるのか、なぜ心をくすぐられ、癒やされるのか。編者の2人は、それは彼ら彼女らが「仲間だからだ」という。

 コンテストで得た収益や、本書の売り上げの一部はそんな「仲間たち」の保護に使われる。

 愉快な写真で、この地球の生き物たちの多様性をそれとなく教えてくれる面白本。ぜひ、子供や家族、そして友人らと一緒にどうぞ。

(二見書房 1500円+税)

【連載】GRAPHIC

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性