「なぜリベラルは敗け続けるのか」岡田憲治著/集英社インターナショナル

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 アベノミクスで景気は拡大したというけれど、実質賃金は大きく下がり、消費税は2度も上がることになった。さらに賃金統計の不正調査問題は解決されていないし、老後の不安も拡大している。投票権の大部分は庶民が握っているというのに、これだけひどい状況下で、なぜ野党は勝てないのか。それは、私にとっても、大きな疑問だった。

 著者の結論は明確だ。それは、野党が純粋無垢で、「正義は勝つ」と信じて自説を譲らず、まとまって戦うことができないからだ。つまり、リベラル勢力の野党は、「子供」なのだ。

 そのことは、自民党を見るとよく分かる。自民党には、右から左まで、さまざまな思想の議員がおり、自由にモノを言っているが、ひとたび党の方針が決まれば、一枚岩になる。政治は数だから、数で敗ければ、何もできないことが分かっているのだ。

 著者は、絶対的な善も、絶対的な悪も存在しないと説く。例えば、田中角栄は地域間格差の縮小という政治目標のため、強引にカネを集め、それをテコに田中派を最大派閥にしていった。善と悪が混在していたのだ。

 もしかすると、リベラル勢力は、子供以下なのかもしれないと思う。漫画の世界でも、月光仮面の時代は完全な勧善懲悪だった。ところが、ガンダムあたりから主人公が戦うことの意味を悩み始め、エヴァンゲリオンでは、ずっと悩みっぱなしになっている。子供でさえ、清濁併せのむことを理解し始めているのだ。

 本書で著者は、民進党代表として、希望の党に丸ごと合流しようとした前原誠司氏を擁護している。リベラル勢力を空中分解に追いやった戦犯という世間の評価とはまったく異なるのだ。著者の見立ては、ジリ貧状態だった民進党の仲間を一人でも多く選挙で生き残らせようと「大人」の対応をしたというものだ。

 もちろん誤算はあった。合流したあとの基本政策を自らの信念であるリベラル保守に据えようとして、リベラル層離れを起こしてしまったのだ。その誤算は、小池百合子東京都知事も同じだった。

 今度の参院選で野党はどこまで共闘できるか問われている。同時に国民も「大人」になれるかが、問われているのだ。 ★★半(選者・森永卓郎)

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