天笠啓祐(科学ジャーナスリスト)

公開日: 更新日:

9月×日 今年は残暑が長い。冷房は体調を崩すため、氷枕をしながら寝ているが、面白い本に出会うと、その氷の存在を忘れて寝不足になる。そのような1冊がドノヴァン・ホーン著「モービー・ダック」(こぶし書房 2800円+税)だった。

 モービー・ダックとは、香港から米国に向かっていたコンテナ船から流出した2万8800個ものプラスティックの浴用玩具のアヒルの子などで、それがどこに行きつくのか、著者は教師の仕事を辞めて、それを探る旅に出る。環境問題もこのように切り取ると、味わいが出てくる。

 いまマイクロプラスティック問題が、国際問題化しているが、問題の本質をこのような形で訴えることができるのだと、感心しながら読んだ。しかもこの本は、文明批判へと深化していく。ゲノム編集技術が登場して、近い将来、バイオテクノロジーによって臓器や組織がつくられる時代がやってきそうだ。アヒルのおもちゃではなく、量産されたDNAや細胞、臓器や組織が海に大量に流出したらどうなるだろうか、などと思考が発展する。

9月×日 ニュースを見ていると不愉快なことが多く、世の中をひっくり返すような面白い本はないかと思い、講演先の博多の書店に入りヨナス・ヨナソン著「世界を救う100歳老人」(中村久里子訳 西村書店 1500円+税)を目にした。著者はスウェーデン人で、前著「窓から逃げた100歳老人」が世界中で反響を呼んだが、その続編である。前著で登場したのが、スターリンやトルーマンなどだったが、今回はトランプやメルケル、プーチンなど。常識にとらわれない発想がとにかく面白い。

9月×日 ゲノム編集問題、種子問題、食品添加物などをテーマに講演依頼が多く、韓国、台湾を含めて各地を転々としている。種子問題では元農水大臣の山田正彦さんと一緒に講演することが多い。その山田さんが執筆した「売り渡される食の安全」(KADOKAWA 860円+税)を飛行機の中で読んだ。なぜ日本だけ、食の安全に背を向け、食品表示をないがしろにするのか。現状のひどさを述べながらも、最後に、日本の食は地方が守ると意気軒昂である。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高市首相が招いた「対中損失」に終わり見えず…インバウンド消費1.8兆円減だけでは済まされない

  2. 2

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  3. 3

    現行保険証の「来年3月まで使用延長」がマイナ混乱に拍車…周知不足の怠慢行政

  4. 4

    長女Cocomi"突然の結婚宣言"で…木村拓哉と工藤静香の夫婦関係がギクシャクし始めた

  5. 5

    「NHKから国民を守る党」崩壊秒読み…立花孝志党首は服役の公算大、斉藤副党首の唐突離党がダメ押し

  1. 6

    国民民主党でくすぶる「パワハラ問題」めぐり玉木雄一郎代表がブチ切れ! 定例会見での一部始終

  2. 7

    ドジャース大谷翔平が目指すは「来季60本15勝」…オフの肉体改造へスタジアム施設をフル活用

  3. 8

    男子バレー小川智大と熱愛報道のCocomi ハイキューファンから《オタクの最高峰》と羨望の眼差し

  4. 9

    長女Cocomiに熱愛発覚…父キムタクがさらに抱える2つの「ちょ、待てよ」リスク

  5. 10

    【武道館】で開催されたザ・タイガース解散コンサートを見に来た加橋かつみ