上田恵介(日本野鳥の会会長 立教大学名誉教授)

公開日: 更新日:

11月×日 晴れ渡ってはいるが肌寒い晩秋の朝。窓の外から「ヒッヒッ」という声が聞こえてくる。遠くシベリアから渡ってきた小鳥のジョウビタキの声である。

 今日は出かける用事もないので、埼玉在住のアマチュア鳥類研究者、内田博が地元の出版社から出した「日本産鳥類の卵と巣」(まつやま書房 2500円+税)のページをめくっている。タイトル通り、鳥の卵と巣のきれいな写真図鑑である。鳥の卵は美しい。青い卵、赤い卵、いろんな色の鳥の卵の写真は見ているだけで楽しくなる。著者が実際に野外で観察した面白いトピックのエッセーが随所に挿入されており、鳥の生態についての著者の深い洞察があって、鳥類学の専門家としても役に立つ、楽しい本に仕上がっている。

11月×日 近所の公民館であったメガソーラーの講演会に出かけた。そこで以前、一緒に自治会の役員をしていた女性に久しぶりにあった。彼女は今、北海道で大学の先生をしているのだが、最近、こんな本を書いたと言って1冊の本をくれた。それは北海道における先住民族アイヌと朝鮮人の接触の歴史を辿った本、石純姫著「朝鮮人とアイヌ民族の歴史的つながり」(寿郎社 2200円+税)である。

 炭鉱や鉄道工事のために北海道に連れてこられた朝鮮人たちは、過酷な労働と迫害に耐えかねて、工事現場のタコ部屋から逃げ出すことも多々あった。捕まれば壮絶な拷問が待っている。この逃亡朝鮮人を積極的にかくまってくれたのはアイヌの人たちであるという。自分たちもひどい差別に苦しんでいたアイヌゆえ、彼らは逃げてきた朝鮮人を納屋にかくまい、食事や服を与え、逃げるための鉄道切符まで買ってやって、逃亡を手助けした。

 差別されてきた者には、弱い者の苦しみがわかるのだ。アイヌ人差別と朝鮮人差別、アイヌと朝鮮人という日本社会におけるマイノリティーに光を当て、戦前の入り組んだ差別構造をあぶり出したこれまでにない書である。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    N党・立花孝志氏に迫る「自己破産」…元兵庫県議への名誉毀損容疑で逮捕送検、巨額の借金で深刻金欠

  2. 2

    高市内閣は早期解散を封印? 高支持率でも“自民離れ”が止まらない!葛飾区議選で7人落選の大打撃

  3. 3

    箱根駅伝は「勝者のノウハウ」のある我々が勝つ!出雲の7位から良い流れが作れています

  4. 4

    女子プロレス転向フワちゃんいきなり正念場か…関係者が懸念するタレント時代からの“負の行状”

  5. 5

    高市首相「午前3時出勤」は日米“大はしゃぎ”会談の自業自得…維新吉村代表「野党の質問通告遅い」はフェイク

  1. 6

    歪んだ「NHK愛」を育んだ生い立ち…天下のNHKに就職→自慢のキャリア強制終了で逆恨み

  2. 7

    我が専大松戸は来春センバツへ…「入念な準備」が結果的に“横浜撃破”に繋がった

  3. 8

    学歴詐称問題の伊東市長より“東洋大生らしい”フワちゃんの意外な一面…ちゃんと卒業、3カ国語ペラペラ

  4. 9

    村上宗隆、岡本和真、今井達也のお値段は?米スカウト&専門家が下すガチ評価

  5. 10

    自死した元兵庫県議の妻がN党・立花孝志党首を「名誉毀損」の疑いで刑事告訴…今後予想される厳しい捜査の行方