中山七里 ドクター・デスの再臨

1961年、岐阜県生まれ。2009年「さよならドビュッシー」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。本作は「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「ハーメルンの誘拐魔」「ドクター・デスの遺産」「カインの傲慢 」に続く、シリーズ第6弾。

<11>気の毒だが前の事件に瓜二つ

公開日: 更新日:

 長山宅では既に鑑識作業が始まっていた。

「予想通りの人選だな。死体はもう司法解剖に回した」

 犬養と明日香の姿を認めた御厨検視官は同情とも揶揄とも取れる言葉を投げてきた。いち早く反応したのは明日香だ。

「安楽死が絡む事件はわたしたちの担当だと思われているんでしょうか」

「オーソリティーというよりもパイオニアだと思われているんじゃないのか。何と言ってもドクター・デスを追い詰めて手錠を嵌めたのは君たちだからな」

 とんでもない買い被りだ、と犬養は思う。確かに犯人は捕まえた。しかし、その罪を問えたとはとても言えない。犬養たちのしたことは安楽死の糾弾ではなく、正当性の喧伝に一役買っただけだ。

「やはり安楽死ですか」

「お前さんには気の毒だが、前の事件と瓜二つだ。被害者の血液には常識外れのカリウム濃度が認められる。死因はおそらく心筋マヒによる心停止。外見は心不全の症状と見分けがつかん」

「血液の分析は済んでいるんですね」

「駆けつけた救急隊員が早々にサンプルを採取していた。もちろん検視の段階で再度サンプルを採取し直したが結果は同じだ」

「チオペンタールは検出されましたか」

 意識が覚醒している時、いきなり高濃度の塩化カリウム製剤を投与すれば患者は猛烈に苦しみ出す。完璧な安楽死を提供する側はまずチオペンタールで患者を昏睡状態にした上で塩化カリウム製剤を投与する。それが前の事件でドクター・デスが行っていた処方だ。長山瑞穂を殺害した者がドクター・デスの犯行を模倣したと仮定するなら、チオペンタール投与の有無は重要な手掛かりになる。

「さすがに薬剤の特定は無理だ。チオペンタールが投与されず患者が苦しんだかどうか、元々ALSだからシーツの乱れも少なく判断も難しい。例によって司法解剖の報告書待ちだな」

「どこに解剖を依頼しましたか」

「東大法医学教室。蔵間准教授にお願いした」

 犬養は何度目かの既視感に襲われる。蔵間准教授と言えば、前回の安楽死事件で最初に司法解剖を依頼した法医学者だ。

「以前に同様のケースを担当していれば判断も早いだろう」

 御厨は半ば弁解するように言うが、それもまた犬養への配慮に聞こえなくもない。

 まるで前回の悪夢を反芻するような居心地悪さを覚える。危険だと直感する。錯覚であれ何であれ、初動捜査の段階で先入観を持っていいはずがない。明日香も同じことを考えているのか、どこか落ち着かない様子だった。

 (つづく)

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