「朝鮮戦争を戦った日本人」藤原和樹著

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 米国立公文書館で、ある機密資料が見つかった。それは、朝鮮戦争に加わった日本人に対する尋問記録だった。「武器は支給されたか」「その武器を使用したか」「人を殺したか」。尋問に答えているのは、朝鮮戦争開戦当時、10代後半から20代の日本人青年たちだった。

 ある論文によって尋問記録の存在を知った著者(NHKディレクター)は、膨大で煩雑な記録を読み解き、少なくとも70人の日本人が朝鮮の戦場にいたことを突き止める。タカツ・ケンゾウ、ウエノ・タモツ、イノウエ・ジュンイチ、ヒラツカ・シゲジ……。ローマ字で記された名前と住所を頼りに、「朝鮮戦争に行った日本人」とその近親者、関係者を捜し出し訪ね歩く長い取材が始まった。

 2019年8月に放送されたBS1スペシャル「隠された“戦争協力”朝鮮戦争と日本人」を書籍化したノンフィクション。さらに追加取材を重ね、歴史の闇に置き去りにされた人たちの存在を蘇らせた。彼らには、それぞれの事情があった。太平洋戦争の戦災孤児、元特攻の訓練生、外地で家族と生き別れた者。彼らは占領下の日本で生き抜くために米軍基地に働き口を求め、ハウスボーイや炊事係になった。仕事ぶりが評価され、可愛がられ、かつて敵だった米兵との間に人間的交流も生まれた。

 1950年に朝鮮戦争が起こると、彼らは米兵に同行して朝鮮に渡った。上官に請われた者もいれば、仕事を失うことを恐れて自ら願い出た者もいた。彼らは民間人だったが、苛烈な戦場で武器を持ち、戦闘に参加せざるを得なかった。戦死した者もいた。しかし、こうした事実は日米双方の国家によって隠蔽された。

 朝鮮戦争に加わった青年たちの個人史を掘り起こす過程で、「平和憲法下の戦争協力」という不都合な真実が露呈する。戦争放棄の理念は、すでに70年前からタテマエに過ぎなかったのか……。衝撃が走る。

(NHK出版 1900円+税)

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