「聖なる怪物たち」河原れん著

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 世界で初めて体外受精により妊娠した児が生まれたのは1978年。日本では、生殖医療(体外受精、人工授精、顕微授精、胚移植)による出産は35歳以上の出産増加に伴い、99年の100人に1人から2018年には16人に1人にまで増えている。

 ただし、いずれの生殖医療も配偶者間のみでいわゆる代理母出産は認められていない。本書は、代理母出産をめぐる医療ミステリー。

【あらすじ】司馬健吾は東京郊外の総合病院に着任してから3年目の外科医。私立病院の例に漏れず人手不足で、今週3度目の当直の健吾の元に救急受け入れの要請が舞い込む。聞けば、出産費用を浮かそうと検診を受けずに産気づいてからいきなり病院にやってくる「飛び込み出産」のようだ。専門外だと断ろうとするが、夜間で受け入れ先がない。看護師長の逼迫した声にやむなく受け入れることに。

 しかし胎児は逆子で、急きょ、帝王切開を施す。なんとか胎児は取り上げたが、母親が急変し死亡してしまう。慌てた健吾は、医療ミスを疑われないよう手術のデータを消去してしまう。おまけに手術に立ち会った師長と看護師が何者かに襲われ、今回の手術のことは口外しないようにとクギを刺され、母親の遺体も持ち去られてしまった。実はその母親は某セレブ夫婦が違法に託した代理母であり、生き残った赤ん坊を自分たちの子どもとして育てようとしていたのだ。

 これで終わりかと思ったら、データ消去がばれてしまい、健吾は退職に追い込まれる。憤まんやる方ない健吾は事件をもう一度検証してみるが、そこには思いも寄らぬ秘密が隠されていた……。

【読みどころ】関係者それぞれの思いが複雑に絡み合いながら、思わぬ方向へと導いていくヒューマンドラマ。 <石>

(幻冬舎660円)

【連載】文庫で読む 医療小説

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