黒木亮(作家)

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8月×日 自宅から電車で35分ほどのピカデリー・サーカスにある日本食料品店に刺身を買いに行く。英国は1年4ヶ月ほど続いた行動規制の大半が7月19日にようやく解除され、息を吹き返したところだ。自宅の近所以外に外出できず、刺身も買いに行けない生活はさすがに辛かった。ただデルタ株の感染拡大で、一時期待が高まった集団免疫は、残念ながら少し遠のいた感じ。

 篠田航一著「盗まれたエジプト文明」(文藝春秋 968円)を読む。毎日新聞カイロ特派員の著者が「盗掘」という視点からエジプトの古代遺産について書いた本。エジプト内外の取材時の様子などもふんだんに書かれ、まるで自分の代わりに著者が旅をしてくれているような錯覚に陥る。ロゼッタストーンを手がかりにヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)を解読したシャンポリオンの天才ぶりと執念や、シリアのパルミラ遺跡の研究と保護に一生を捧げ「ミスター・パルミラ」と呼ばれたハリド・アスアド氏の生涯に胸を打たれる。

8月×日 毎年夏はスペインやイタリアで休暇を取るが、まだ入出国前後のPCR検査などがあるので、今年はもっぱら英国内旅行。ここ1ヶ月半ほどで、南西部のエクセター、トーキー、北東部のダラム、スカボロー、ウィットビーなどに出かけた。外国人観光客がほとんどいない素顔の英国が見られるのはコロナ禍の予期せぬ恩恵か。地方に行くとアジア人がほとんどいないので、たまに珍しそうに顔を見られたりする。

 青木節子著「中国が宇宙を支配する日」(新潮社 836円)を読む。国際法と宇宙法の専門家による宇宙開発利用の歴史と現状に関する本。中国に関しては全体の3分の1で、残りは米国、欧州、ロシア、日本について書かれ、日本の立ち位置がよく分かる。中国の有人宇宙飛行などはニュースで知っていたが、すべての暗号を破れる量子科学衛星の打ち上げや、米国のGPSに対抗する衛星測位システム「北斗」の利用促進のため、中国製衛星の提供や地上局の建設・運用肩代わりをする宇宙版「一帯一路」を推進する戦略には危機感を抱かされる。

【連載】週間読書日記

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