山田昌弘(中央大学教授・作家)

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7月×日 長く私の仕事を手伝ってくれている女性が、「山田先生、萩尾望都、好きですよね、面白い本出ましたよ、注文しておきますね」と言われ購入した萩尾望都著「一度きりの大泉の話」(河出書房新社 1980円)を読み始める。彼女が有名になる前、デビューしたてのころの日記風エッセーである。彼女が、両親からマンガを書くことを否定され続けていた話は知っていたが、50年前、まわりの漫画家たちとこんなに確執があったとは――。羨望と嫉妬が渦巻く世界、その中で才能はあるが純粋で話し下手の彼女がなんとか立ち直っていく物語。私も世渡りがうまい方ではないので、昔の自分を思い出しながら、共感して読んだ。私が研究者を続けていられるのも、彼女と同じく、心温かな友人に恵まれていたから、と改めて感じ入った。

7月×日 また、彼女から「ネコ漫画、好きですよね」と紹介されたものを読み始める。タイトルは、「きみにかわれるまえに」(カレー沢薫著 日本文芸社 814円)。今、ペットをテーマにした漫画がたくさんでている。「夜廻り猫」(深谷かほる著 講談社 1100円)も心温まるストーリーで愛読書なのだが、本書もそれに劣らず心に響くコミックである。

 私も18歳になる高齢ネコと生活しているが、時々、「このネコは、私に飼われて幸せなのだろうか?」と自問自答する。飼った以上は、完璧な飼い主でありたいと思う、しかし現実にはそうはいかない。子育ても似たようなところがあるが、多くの場合子は独立し、親は先に亡くなる。しかし、ペットは飼い始めから、死ぬときまで、その一生を引き受けざるを得ない。本書は、さまざまな飼い主がどのような気持ちでペットの一生と向き合ったかを描く短編集。うちのネコに改めて感謝。

7月×日 最後の対面授業。昨年は全て自宅からのリモート授業。彼女に「コロナ後もリモート残らないかな」と愚痴ったら、「私の夫も同じ事言ってましたよ。先生、大学に個室があるからいいじゃないですか」と言われてしまった。確かに。

【連載】週間読書日記

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