「貧困のない世界を創る」ムハマド・ユヌス著 猪熊弘子訳

公開日: 更新日:

 300年前に近代資本主義が登場し、ビジネスは成長し続けてきた。しかし、世界の総所得の94%は40%の人々にしか行きわたらず、残る60%は世界の総所得のたった6%で生活しているのが現実だ。

 そこで近年注目を集めているのが、社会問題を解決する「ソーシャル・ビジネス」である。本書では、バングラデシュで、マイクロクレジット(無担保少額融資)によって農村部の貧しい人々の自立を支援するグラミン銀行を創設し、同国の貧困軽減に大きく貢献したノーベル平和賞受賞者である著者が、ソーシャル・ビジネスという新しい経済システムについて解説している。

 著者はソーシャル・ビジネスについて、「最も困窮している人々に直接的な利益をもたらしながら経済成長を促す何百もの会社を育てるアイデア」と定義している。そして、それは慈善事業ではなく、社会的利益の最大化を目指しつつ会社として自己持続型の運営が可能な組織と説いている。多くの企業が取り組んでいるCSR(企業の社会的責任)活動とどう違うのかという疑問が出てくるが、本書はその点も明確に記している。

 CSRには、「人類や地球に危害を加えない」という“弱いCSR”と、「人類と地球に対して善い行いをする」という“強いCSR”という2つの形がある。しかしいずれにせよ、利益とCSRが相いれないとき、株主に対する責任がある企業の経営者は、利益を上げることを優先せざるを得なくなる。これがCSRの限界だ。

 ならば、ソーシャル・ビジネスも夢物語ではないかと思えてしまうが、本書ではその具体的な手段として、グラミン銀行の実体験をつづっている。貧困のない世界を創ることは、決して不可能ではないことを教えられる。

(早川書房 2750円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?