鎌田慧(作家)

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3月×日 川人博、高橋幸美著「過労死・ハラスメントのない社会を」(日本評論社 1760円)を読む。

「命より大切な仕事はありません。どうかすべてのひとが働いて幸せになれるように、働くことへの意識を変えてほしいと思います」

 広告会社・電通に入社してわずか8ヶ月、2015年のクリスマス・イブに過労自殺した、高橋まつりさんの母親・幸美さんの言葉だ。人間だれしも幸せになるために働く。しかし働かされ過ぎでいのちを絶った。娘の悲惨な死を悲しむ母親のせめてもの願いだ。

 まつりさんは母親に「深夜残業が東京の夜景をつくっている」と言ったとか。亡くなった後、夜景を眺める者に深い無情を感じさせる言葉だ。「働きたくないとかじゃなくて、朝起きたくない」「1日の睡眠時間2時間はレベルが高すぎる」などと、まつりさんはSNSで発信していた。

 写真でみると明るい笑顔の健康的な女性だ。入社半年たった頃から、急速に心身ともに悪化していたようだ。張り切っていた新入社員を、死ぬまで追いつめた会社の責任は大きい。

 会社から支給されていた社員手帳には、4代目社長の有名な「遺訓」が掲載されている。「取り組んだら『放すな』。殺されても放すな、目的完遂までは」。死ぬまで戦え、とする戦陣訓だ。たかが会社じゃないか、という価値観を潰すための、経営者の呪いでもあった。

 だから上司たちは鬼軍曹のように、新兵をいびった。「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」「髪ボサボサ、目を充血したまま出勤するな」「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」

 過労とパワハラ。20代の女性を奴隷のように酷使し、踏み潰した。過労死申請からわずか半年たらずで認定をかちとった川人博弁護士にとって、高橋まつりさんは、彼の目の前に現れた電通4度目の過労死者だった。

 過労死やパワハラ死は、生産性向上・効率化戦線の戦死者だ。会社は利益を追求する集団とはいえ、人権と人間性無視で生産性を上げるのは犯罪だ、との歯止めが必要だ。過労死は会社の責任だ。裁判は民事ではなく刑事事件に相当する、との経営者の認識の転換が必要だ。

【連載】週間読書日記

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