「密告はうたう」 伊兼源太郎著

公開日: 更新日:

「警察の中の警察」といわれるのが「監察」だ。仲間内の不祥事を明るみに出して、時に退職まで追い込むこともある役割だけに、テレビドラマでも、仲間に嫌われながらも冷徹に事を処理していくといったキャラクターとして描かれることが多い。本書の主人公も、かつての仲間から裏切り者呼ばわりされながらも、己の職務に邁進していく。

【あらすじ】佐良警部補が警視庁人事一課監察係に配属されたのは1年前。当時、警視庁捜査一課強行班第四係兵隊頭(捜査員のまとめ役)だった佐良は、ある捜査で重大なミスを犯し、監察係への異動となったのだ。元公安で「能面の能馬」とあだ名されるエリート監察官能馬の手足となり、この1年で20人以上の行確(行動確認)を行い、依頼退職に追い込んだケースも少なくない。

 新たに能馬から示されたのは、「府中運転免許試験場の皆口菜子巡査部長が、免許データを売っている」という密告文だ。皆口は佐良が交通課から刑事に引き上げた女性刑事で、1年前佐良と同じ事件を担当し、試験場に左遷させられていた。「まさか、あの皆口が?」と信じられない佐良だが、やはり公安出身で凄腕の須賀係長と一緒に皆口の行確を行う。すると、佐良たちの他に彼女を尾行している者がいることが判明。

 そうこうするうちに皆口の周辺で殺人事件が起こる。これは単なるデータ横流しではないと思った佐良はさらに調べを進め、5年前に佐良と皆口が関わったある未解決殺人事件が関係しているらしいことを突き止める。

【読みどころ】監察官という職務と、信頼を寄せていた相手を信じたいという気持ちのはざまで揺れる佐良。事件の進行と共に、監察官としての彼がどのように成長していくかも読みどころ。〈石〉

(実業之日本社754円)

【連載】文庫で読む 警察小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    日本の課題がわかる「リチウム戦争」アーネスト・シェイダー著/ニューズピックス(選者:佐藤優)

  2. 2

    天皇と戦争の世紀(1)岸信介外相の入閣に異を唱えた昭和天皇

  3. 3

    天皇と戦争の世紀(2)軍部の「大権干犯に当たらず」の説明に苛立ち

  4. 4

    皿書店(豪徳寺)「開高健も書いているし、食の本の店にしよう。そんな感じで」1年前にオープン

  5. 5

    「埋もれてきたもうひとつの抑留の真実と、日本政府の冷淡を知ってもらいたい」──「モンゴル抑留 見捨てられた死者たち」井手裕彦氏

  1. 6

    天皇と戦争の世紀(3)無条件降伏の後、日本側が天皇制をどう死守したのか

  2. 7

    「いのち、見つめて」夏川草介、渡辺淳一ほか著|看取りの真意を問いかける傑作医療小説集

  3. 8

    まだまだ暑い!酷暑を意識から追い出すミステリー本特集(2)「能面検事の挫折」中山七里著

  4. 9

    よみがえった写真が伝える戦前戦時下の“時代の空気”「AIとカラーでよみがえる戦争の昭和史」別冊宝島編集部編

  5. 10

    まだまだ暑い!酷暑を意識から追い出すミステリー本特集(3)「『石球城』殺人事件」北山猛邦著

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    北島三郎(3)「北島ファミリー」の長女・原田悠里が語る御大

  2. 2

    「マクドは健康保険と年金に加入できてよかった」 シニアが働き続けるために必要なこととは?

  3. 3

    徳川光圀(1)水戸黄門は全国漫遊などしていない 主に出かけたのは江戸と領地の往復

  4. 4

    東京・蒲田の2駅結ぶ蒲蒲線、大田区と地元を取材して分かった実現のハードルと地元の思い

  5. 5

    東京・大井町、OIMACHI TRACKSと対照的な東小路飲食店街、商店街理事長が直面する2つの問題

  1. 6

    NHK夏の音楽特番「うたであえたら」は北川景子のMCが見事 カオスと化した近年の紅白はお手本に

  2. 7

    「山口組」抗争指定解除へ、それでも対立は続く…6代目幹部「喜ぶのは早い」

  3. 8

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  4. 9

    止まらない高市首相SNS発信に官邸総動員の実態…この週末は3日間で11連投も「ゴキブリ」投稿で大炎上

  5. 10

    清水アキラさんが三男急死の直前に語っていた“せがれ”のこと 良太郎さんに口説かれものまねショー復帰