梶よう子(作家)

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1月×日 昨2022年は、鉄道開業から150年。東京駅直結の東京ステーションギャラリーで、鉄道に関連する絵画、写真によって歴史を辿った展覧会の図録「鉄道と美術の150年」(左右社 2970円)を入手した。昨秋、日本初の鉄道敷設に従事した土木請負人を主人公にした拙著「我、鉄路を拓かん」(PHP研究所 1980円)の執筆に際し、鉄道資料を読み漁ったので、この図録が欲しかったのだ。圧巻、圧倒、大満足。鉄道は経済を支え、恩恵をもたらし、社会を震撼させる事件の舞台にもなった。近代日本の歴史とまさにリンクしている。これからも線路は続くよ、どこまでも、と未来を思う。

1月×日 某テレビ番組を、観ていたら、グスタフ・マーラーの「交響曲第5番第4楽章アダージェット」が流れてきた。この曲との出会いは、巨匠ヴィスコンティの名作「ベニスに死す」。初老の音楽家が旅先で出会った少年に恋する物語に、中2病真っ盛りの乙女は、映画の原作(同名)を買いに走った。当時は岩波文庫だったが、その後、買い直し、現在手元にあるのは集英社文庫(495円)だ。再読というか再々読というか、久しぶりに頁を繰った次第。若い頃は難解な文章から溢れ出る美少年の佇まいを堪能していたが、歳を重ねると、初老の主人公(原作では作家)に感情移入する。同じ小説を読みながら、年代によって視点が変わる面白さ。だから読書は楽しいし、やめられない。

1月×日 今年の大河ドラマの主人公は徳川家康かぁと思って、ふと気づいた。時代、歴史小説を書く身として、家康のことはもちろん知っているが、一生を語れと言われたら、あまり自信がない。世の中、わかったつもりになっていることが実に多い。これはいかん、この機に家康を学ぼう! と思い立ち、選んだのは、「徳川家康」(KADOKAWA 726円)だ。著者は松本清張。ただし1964年初版の新装版のため、現在の家康研究とは異なる部分がある。しかしながら、家康の辿った人生、その苦難や偉業が、まるっとわかる。なんたって小、中学生のために書かれた伝記なのだ。が、そこは清張先生なので、冷静な眼で人物や時代を分析している。数時間で読み切った後は、そこそこ家康通になれたかなと思っている(笑)。

【連載】週間読書日記

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