「外事警察秘録」北村滋著

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「外事警察秘録」北村滋著

 2020年1月、国家安全保障局長だった著者は、時の総理大臣・安倍晋三の代理人としてモスクワ近郊のプーチン大統領公邸を訪れた。会談が終わり、握手を交わして部屋を出る際、大統領から言葉をかけられた。

「同じ業種の仲間だよな、君は」

 KGB出身のプーチンにこう言われた著者は、日本のインテリジェンスマスター。警察庁警備局外事情報部で外国スパイの摘発や国際テロ対策に長く携わり、その後は内閣情報官として国家安全保障政策を推進してきた。

 本書は在任中のさまざまな体験を記録したノンフィクション。目次には、日本社会を揺るがした大事件が並ぶ。「横田めぐみさん『偽遺骨』事件」「日本赤軍との闘い」「オウム真理教『ロシアコネクション』」……。職務上、倫理上の制約の範囲内ではあるが、外事警察インサイダーの視点で事件の実相が語られる。

 自国発のテロ組織・連合赤軍が海外で引き起こす凶悪なテロ事件の捜査によって、日本の外事警察は新しい領域に踏み込むことになった。

 オウム真理教は、ソ連崩壊直前に構想された「ロ日大学・ロ日基金」への多額の寄付を足がかりにロシア高官との関係を築き、ロシア側はオウム軍事化のための技術や装備を提供していた。

 日本研究専門家の顔を持つ中国のスパイは、日本のTPPへの参加を阻止するために農水省高官に接触、日米の足並みを乱そうと画策していた。

 こうした数々の事件に関わるなかで、日本の安全保障上、秘密情報漏洩防止の徹底が不可欠と考えていた著者は、安倍政権のもとで特定秘密保護法の策定と施行に職を賭して注力した。最大発行部数を誇る読売新聞に「どうか反対の論陣を張らないでください」と頭を下げまでした。

 長くスパイやテロ対策に関わった人ならではの視点が全編を貫いている。現代の安全保障を考える上で貴重な手がかりとなる一冊。 (文藝春秋 1760円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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