「立法者・性・文明」谷口功一著

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「立法者・性・文明」谷口功一著

 国会で旧統一教会との関係について追及を受け「記憶にない」を連発する盛山文科相に対しては非難の嵐だが、2年前、やはり「記憶にない」の一点張りで辞任した山際経済再生相のことも記憶に新しい。50年前のロッキード事件以来、日本の国会議員は物忘れが宿痾のようだ。同じ国会を舞台にした事件として、本書には70年前、国会の証人喚問によって自殺に追い込まれた菅季治の一件が紹介されている。

 1950年、日本共産党書記長・徳田球一がソ連に対して「日本人捕虜の中でも反動は帰すな」と「要請」したという問題が衆議院で取り上げられた。徳田は否定したが、当時ソ連の将校の通訳を務めた菅が証人として喚問されたのだ。菅はそのとき使われた言葉は「要請」ではなく、「期待」だという事実を丁寧に述べた。

 しかし、議員たちは納得せず執拗に菅を追及、追い込まれた菅は翌日鉄道自殺を遂げる。著者はこれを立法者と哲学者(菅は京大哲学科卒)との対話と捉えて、この事件の問題の所在を探っていく。

 現今の茶番劇を見ていると忘れがちだが、国会は立法府であり国会議員の第一の仕事は法を制定することだ。本書は、法哲学の著者が、立法もしくは立法者にまつわる問題に関してさまざまな観点から考察したもの。

 中でも2003年に成立した「性同一性障害」特例法には、多くの紙幅を割いている。ジェンダー/セクシュアリティーの領域における「公共性」の問題、この法の立法過程、さらには性別二元秩序や家父長制といった社会文化的な問題との相克など、この法の多面的な面を照らし出している。

 そのほか、多文化主義を福祉とナショナリズムの側面から捉えることで、多文化主義の有する根源的問題をあぶり出す。法哲学という分野から現代社会の多様なアポリア(難問)を浮き彫りにしていく著者の視点は刺激的かつ新鮮である。 〈狸〉

(白水社 2970円)

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