「兵役拒否の問い」イ・ヨンスク著、森田和樹訳

公開日: 更新日:

「兵役拒否の問い」イ・ヨンスク著、森田和樹訳

 ビートルズがデビューしたのは1962年。英国で徴兵制が廃止されたのは60年だから、もし徴兵制がもう少し存続していたらメンバーたちは徴兵にとられ、ビートルズは存在しなかったかもしれないといわれている。

 一方、いまだ徴兵制を運用している韓国では、BTSのメンバー全員が兵役につき、活動再開は全員が兵役を終える2025年になるという。徴兵制という盾の片面にあるのが徴兵拒否だ。ベトナム戦争の反戦運動が盛り上がる中、米国では徴兵拒否者が相次ぎ、ついに徴兵制が廃止された(現在は選抜徴兵制を導入)。

 本書は韓国における徴兵拒否運動の軌跡を描いたもの。著者は自ら徴兵拒否をし収監され、その後、平和運動団体「戦争なき世界」の活動家として活躍している。

 韓国でエホバの証人のように宗教的な理由ではない徴兵拒否運動が本格的に始まるのは、2001年末に仏教徒で平和活動家のオ・テヤンが兵役拒否を宣言してからだ。これ以降、兵役拒否は特定の信者による例外的な行動ではなく、憲法で保障された良心の自由を侵害する人権問題として社会的に論議されることになる。

 その際大きな壁となるのが監獄行きという刑事罰だ。前科者という烙印を押され、下獄後の就職も容易ではない。

 この壁を取り払うために著者らが目指したのが代替服務制の導入だ。兵役の代わりに介護など社会サービスなどをするというもの。運動の甲斐あって2018年に代替服務制が導入されるが、結果は軍務服務の2倍の36カ月と長期間が設定され、兵役拒否者の政治的メッセージの希薄化というマイナス面も現れている。そのほか、運動内のジェンダーギャップやセクシュアルマイノリティーへの差別などの問題も指摘されている。

 本書で描かれる徴兵拒否運動を巡る紆余曲折の軌跡は、広く平和運動がどうあるべきかを示す貴重な証言であり、今こそ読まれるべきものだ。 〈狸〉

(以文社 2860円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  2. 2

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  3. 3

    阪神・佐藤輝明が“文春砲”に本塁打返しの鋼メンタル!球団はピリピリも、本人たちはどこ吹く風

  4. 4

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  5. 5

    広末涼子「実況見分」タイミングの謎…新東名事故から3カ月以上なのに警察がメディアに流した理由

  1. 6

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  2. 7

    国保の有効期限切れが8月1日からいよいよスタート…マイナ大混乱を招いた河野太郎前デジタル相の大罪

  3. 8

    『ナイアガラ・ムーン』の音源を聴き、ライバルの細野晴臣は素直に脱帽した

  4. 9

    初当選から9カ月の自民党・森下千里議員は今…参政党さや氏で改めて注目を浴びる"女性タレント議員"

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」