「ゆびさきに魔法」三浦しをん著

公開日: 更新日:

「ゆびさきに魔法」三浦しをん著

 月島美佐は、弥生新町駅前の富士見商店街でネイルサロン「月と星」を営むネイリスト。もう1人ネイリストを雇いたいと思いつつ1年が経った頃、「月と星」の数軒隣の居酒屋「あと一杯」の常連客・大沢星絵が大将・松永の巻き爪を診てくれと連れてやってきた。それが縁で星絵は美佐のアシスタントとして働くことに。星絵はネイリスト2級だが、センスはあるようだ。飲めば酔っぱらいと化すが、案外真面目で熱心だった。

 二人馬力になったサロンにはさまざまな客が訪れるようになる。子育てが忙しくストレスを抱えるママ、ネイルが好きなのに大っぴらにできない国民的俳優、女性経営者……。仕事は順調、明るくて子犬のように懐いてくる星絵もかわいい。

 しかし一方で、美佐はどんどん自信をなくしていく。星絵の人との距離をあっという間に縮める能力、自由奔放だが繊細で緻密なデザイン。どれも自分にないものだった。思い詰めた美佐は、ある決断をする……。

「家事をしていない」「チャラい」などと揶揄されがちなネイルを題材に描くお仕事小説。若く才能のある後輩を目の当たりにし、自分の長所が見えなくなってしまう美佐の姿は、働く人なら一度は経験があるだろう。

 悩みながらも美佐が自分を認めるまでの心の揺れが丁寧に描かれており、思わず応援をしたくなる。

(文藝春秋 1980円)


【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  2. 2

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  3. 3

    高市内閣の閣僚にスキャンダル連鎖の予兆…支持率絶好調ロケットスタートも不穏な空気

  4. 4

    葵わかなが卒業した日本女子体育大付属二階堂高校の凄さ 3人も“朝ドラヒロイン”を輩出

  5. 5

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    隠し子の養育費をケチって訴えられたドミニカ産の大物種馬

  3. 8

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 9

    高市早苗「飲みィのやりィのやりまくり…」 自伝でブチまけていた“肉食”の衝撃!

  5. 10

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑