“捕らわれの身”と感じている友人が息子の話になると笑顔に
                        
「ああ、自由になれたんだ。シャバに出られたんだ。俺は笑って歩いている。おかしなヤツと思われるだろうが、そんなことはお構いなし。ああ、俺はシャバに出られたんだ」
 あの時の、あの気分を自分はもう味わえないのだろうか?
 ◇  ◇  ◇ 
 転院して最初に迎えた日曜日、Rさんは2時間だけの許可をもらって、普段着に着替えて近くのコーヒーショップに出かけました。
「入院中の捕らわれの身だということをだれも気付かないだろう。ただ、疲れた男が入ってきたとしか思わないだろう。でも、私は『2時間』に縛られた捕らわれの身なのだ。壁にかかったルノワールの絵も、店内で流れているドボルザークの新世界も、私には何も語らない……」
 Rさんは、コーヒーを半分残してそそくさと病室に戻りました。
「外にいた人たちと私とは違う。私は捕らわれの身。死が近い身なのだ」
 ◇  ◇  ◇ 
 働いているRさんの妻は、週2回ほど着替えを持って来てくれます。B病院に移って3週間がたった頃には、息子が訪ねて来てくれました。
                    

                                    
                                        
















