著者のコラム一覧
尾上泰彦「プライベートケアクリニック東京」名誉院長

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

「梅毒を武器に敵と戦った女性」を描いたモーパッサンの背景

公開日: 更新日:

「あたし、仕返ししてやろうと思ったんですわ!これをいいことに、あたしも、やつらに、手あたりしだい、病毒を、一人でも多くうつしてやりました。やつらが、ルーアンにいるかぎり、治療なんか、しませんでしたとも」

 これは19世紀に活躍したフランスの小説家・モーパッサンが書いた、「二十九号の寝台」という短編小説の一節です。主人公の若き大尉は遠征先である美女と付き合います。ところが大尉が出征中にその女性の住む街が敵方に占領され、愛する女性は敵兵に力づくで犯され、梅毒をうつされてしまいます。彼女はその仇を取るため治療をせず、その後、何人もの敵方将校と付き合い“梅毒を武器に戦った”と勲章を胸に凱旋した大尉に告白するのです。事実を知り、離れようとする大尉に彼女はこう言い放ちます。

「このあたしがよ、あんたの連隊みんな寄せ集めたよりは、あたしのほうがよっぽど殺したんだよ…卑怯者!さっさとお行き…」

 なんともすさまじい話ですが、現実にありそうなことでもあります。HIVが騒がれた頃、行きずりの女性と一夜を共にした男性がふと目覚めると、女性の姿はなく、鏡台の鏡に口紅で「エイズの世界にようこそ」と書かれていてゾッとした…なんて都市伝説があったことを思い出します。

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