著者のコラム一覧
堀田秀吾明治大学教授、言語学者

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

「皿を洗って」よりも「皿を4枚洗って」の方が相手をやる気にさせる

公開日: 更新日:

 もしもあなたが、友人から「750円を貸してほしい」と頼まれたら、どうしますか? 貸してもいいという人は、おそらく中途半端な750円を貸すよりも、「1000円を貸すから、後で1000円を返して」と伝えるのではないでしょうか?

 心理学の世界には、他者にお願いを聞いてもらう「ピークテクニック」という方法があります。カリフォルニア大が、ホームレスの方に協力をお願いし、次のような実験(1994年)を行いました。

 ホームレスは、ひたすら通行人に「小銭をくれませんか?」と声をかけるのですが、その際、お願いの仕方を3つに分けたそうです。

「①小銭をくれませんか?」「②25セントくれませんか?」「③37セントくれませんか?」──。

 すると、①の成功率は44%、②の成功率は64%、③の成功率はなんと75%(!!)という結果が明らかになりました。なぜ③が最も成功率が高かったのか? それは、37セントという中途半端な額を提示することで、「中途半端だな、それなら……」と通行人が25セントや50セントといった硬貨を与える機会が増したからだといいます。

 冒頭で説明したように、中途半端な額を提示されると、人は違和感を覚え印象に残りやすくなります。中途半端な数字というのは、考えようによってはとても具体性を持ちますから、よりリアルに感じさせる力があるのでしょう。

 実際問題として、アメリカのスーパーマーケットなどでは、40ドルではなく39ドルといったような「9」で終わる価格帯が目立ち、こうした価格を「チャームプライス」と呼んでいます。

 また、言語学の世界には、ある特徴を積極的に示す「有標(性)」という用語があります。たとえば、テレビショッピングなどで、「今なら○○を付属します!」とか、「お時間限定で2万5000円のところを1万9800円!」なんて言葉をよく耳にすると思います。文法や語彙などにおいて、ある特徴を積極的に表すことで、私たちはより関心を向けてしまう傾向があるのです。

 そもそも、先のピークテクニックのピーク(pique)とは、「好奇心や興味をそそる」という意味を含みます。心に引っかかってしまう数字や文言は、相手に「何か意味や特別感がある」と勝手に感じ取らせ、結果、有効的なケースをつくり出してしまうのです。

 こうしたテクニックを活用できるシーンは少なくありません。

 一例を挙げれば、まったく家事をしてくれない夫に対して、「ごめん、ちょっとお皿を4枚だけ洗ってくれない?」なんて頼めば、成功率がアップするかもしれません。「食器を洗ってくれない?」よりも、4枚という中途半端な数字を提示することで、夫も「なんで4枚なんだ!?」と関心を抱く可能性はグッと高まります。

 腰さえ上がれば、やる気のスイッチが入りますから、4枚だったはずが全部洗ってくれる……なんて可能性も。

 ピークテクニックは、人間の関心や興味を意図的に高めることにもつながり、相手の心のフックになります。ぜひ覚えておいてください。


◆本コラム待望の書籍化!

『不安』があなたを強くする 逆説のストレス対処法
堀田秀吾著(日刊現代・講談社 900円)

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  2. 2

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  3. 3

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  4. 4

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  5. 5

    佳子さま“ギリシャフィーバー”束の間「婚約内定近し」の噂…スクープ合戦の火ブタが切られた

  1. 6

    半世紀前のこの国で夢のような音楽が本当につくられていた

  2. 7

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 8

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  4. 9

    田原俊彦「姉妹は塾なし」…苦しい家計を母が支えて山梨県立甲府工業高校土木科を無事卒業

  5. 10

    プロスカウトも把握 高校球界で横行するサイン盗みの実情