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堀田秀吾明治大学教授、言語学者

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

恐れていることを自覚せよ…心が活性化し判断力が高まる

公開日: 更新日:

 好きなものより、嫌いなものや苦手なものの方が記憶に残りやすい。そんな方は一定数いると思います。

「クモが怖い人たちの目には、実際のサイズよりも大きく見えている」というイスラエルにあるネゲブ・ベン=グリオン大学のレイボビッチらの研究(2016年)があります。

 実験では、アンケートに回答してもらった女子学生80人のうち、特に「クモが怖い」と答えた上位20%(12人)と「怖くない」と答えた下位20%(13人)を対象に、スライド写真で、鳥、チョウ、クモ、ハエなどを表示したそうです。

 被験者には写真を見て感じた大きさに応じて、それぞれのスケール感を表してもらったのですが、クモ嫌いのグループは、実際のサイズを過大に評価していることが分かったといいます。

 この実験の面白い点は、上位も下位もクモの写真そのものに対しては「不快」と回答しているところ。ところが、クモが平気な人は「不快」ではあるものの、大きさに関しては適切なサイズを申告していたのですが、クモが怖いと答えていた被験者たちは、実際よりも大きなサイズを申告していました。

 この実験ではクモに特化していますが、怖いものや嫌いなものが大きく見えてしまう──そうした心理に納得する人は多いのではないでしょうか?

 たとえば、昆虫に限った話ではなく、嫌いな野菜が料理に入っていると「こんなにあるの!?」と感じる。これも同じような現象でしょう。

 恐怖は人間の心理にさまざまな影響を及ぼします。

 不安や対人恐怖性なども恐怖をきっかけにするケースが多いですし、時に心的外傷後ストレス障害(PTSD)を引き起こす可能性すらあります。恐怖や不安が高まると精神的にも肉体的にも負荷がかかるため、周囲への配慮や注意が散漫になることもあります。

 恐怖の感情は、脳の扁桃体によってつかさどられています。動物の扁桃体にダメージを与えたところ、今まで恐怖を感じていた天敵に対して自分から向かっていくどころか食べてしまおうとした……といった報告もあるほどです。

 裏を返せば、恐怖を感じていると自覚しているから理性が働くともいえます。

 たとえば、京都大学の正高信男らの発表(2014年)では「恐怖が人の心を活性化し、判断力を高める」としています。

 成人と子どもに、さまざまなヘビと花の写真を見せ、その際の写真の色の回答を求めると、双方ともに花の色よりもヘビの色の方が迅速に回答したそうです。「恐怖は認知情報処理を妨げる」といわれることもありますが、むしろその逆であるかもしれないわけです。恐怖を感じるからこそアンテナが鋭くなる──そんな経験はみなさんにもあるはずです。

 つまり、恐怖といかに上手に付き合うか。これが大事なのです。正しく恐れ、正しく回避できるように準備する。それこそが本当のリスクヘッジと言えるでしょう。


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