お腹の中に子供がいないと告げられ…歌手・姫乃樹リカさん「胞状奇胎」を振り返る

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姫乃樹リカさん(歌手/51歳)=胞状奇胎

 2006年、34歳で妊娠がわかって「やったー、4人目だ!」と喜んだ直後のことでした。

 10週目に入った頃に「このつわりは普通じゃない」と思い始めたんです。気持ち悪いし、食べられないし、体重もどんどん落ちてくるので何か異常なんじゃないかと思い、病院に行きました。

 過去3回のときは、食べ物を見ると「うっ」となるくらいだったのに、その時は一日中ふらふらして、吐き気でほとんど食べられない。体重が8キロも減ったので、生活している米バージニア州にある病院に行くと、「つわりは人それぞれ違うから」と、検査することもなく吐き気止めの薬を処方されました。「妊娠中でも大丈夫な薬」と言われたのですが、もともと薬に頼るのが好きじゃないので、結局、飲まずに頑張って食べるようにしていました。

 そうしたら、今度はお腹がポッコリしてきたのです。まだそんな月齢ではなかったけれど、「4人目ともなるとお腹が出やすくなるのかな」ぐらいに考えていました。すると、そのうちズキズキ痛むようになり再び受診。超音波でお腹の中を見てみると「子供がいない」と告げられました。そして、何人ものドクターが事典を手に集まってきたのです。

「胞状奇胎」は妊娠に伴って絨毛という胎盤の一部がブドウのように袋状に増殖する疾患で、アジア人や中南米の国では症例があるようですが、白人ではめったに見られない病気のようでした。

 そうとは知らなかったので、先生方がざわつく姿を見て、胎児がいないショックよりも「自分の体は大丈夫なんだろうか?」と不安になりました。

 ドクターの説明によると「子宮の壁に細胞が分裂して散らばっている」とのことでした。すでに細胞が子宮の壁を通り抜けてしまっているので「絨毛がん」になる可能性があると言われ、子宮摘出手術抗がん剤治療をすることになりました。

 手術日が決まるまで自宅待機。でも、その間に激痛に襲われて救急車を呼ぶことに……。卵巣が両方ともグレープフルーツ大に肥大していることがわかり、これが破裂してしまうと「おしまい」と言われました。

 胎児はいないけれど、体は妊娠のサインを出し続けているので子宮を大きくしようとして卵巣が分泌物を出すらしいのです。この卵巣が頑張りすぎて大きくなってしまったという説明でした。

 すぐに手術しないと危険だとの判断で、内視鏡で子宮を摘出。そのあと抗がん剤を打ちました。治療ではなく発がんを予防するためのもので、2ショットだけでしたが、本当はやりたくなかったんです。髪の毛抜けちゃうとか、気持ち悪くなるとかいろいろあるでしょう? でも分厚い書類を渡されて、それにサインしないと退院できないと言われたので仕方がありません。子供たちを長く放っておけないですから……。

 副作用はフラフラして気持ち悪い程度で済みました。でも、友人がお見舞いに持ってきてくれたおいなりさんを食べられなかった悔しさが今でも記憶の中に強烈に残っています。

 摘出手術から2日目にはもう退院です。米国では出産でも翌日には退院で、2日もいたら「何かあったの?」と言われるくらいなんですよ。私が以前に出産した時は、翌日に自宅で夕食を作ってました(笑)。

健康志向に拍車がかかった

 退院後は1週間に1回、血液検査のため通院しました。それが1カ月に1回になり、2カ月に1回になり、さらに半年に1回と減っていって、2年経過したあとは、普通の年1回の婦人科検診を受けています。

 病気をしてから、健康志向に拍車がかかりました。以前から「体にいいものを食べる」とか「薬に頼らない」という意識はありましたが、アンテナが一段高くなった。特に食品はパッケージの裏を見て、体に入れたくない添加物が入っていないかをチェックするようになり、結果、ハムは手作りすることが多くなりました。

 病気になりにくい体づくりという点ではフィジカル(肉体)も大事。筋肉も鍛えていますよ(笑)。病気になってしまったときも、基礎体力や基礎免疫力があるとないとでは回復度が違います。

 じつは病後、体のことを学びたいと思い、1年かけてマッサージ師の資格を取得しました。学校が運営する店舗で実践したり、家族や友人にやってあげたり……。ゴルフのトーナメントやマラソンなどのイベントで施術をしたこともあります。

 友人を介してサッカーの澤穂希さんと知り合って、彼女が米国滞在中はよくマッサージをしました。今でも家に遊びに来るほどの仲良しです。

 困った壁にぶつかったときにあたふたして、すべて他人の言うことを聞いていたらどうなってしまうかわからない。病気は、自分で改善する方法を考えるきっかけになりました。「自分の医者は自分」という意識を持って、食べる物も、運動も、ストレス解消も自分でいろいろ試してみて、いまのところうまくいっています。家族全員コロナにかかりましたが、みんな元気ですし、私だけかからずです。

 余談ですけど、まだ日本にいた20代の頃に、新宿の占い師に「子宮の病気に気を付けて」と言われたんですよね。自分は忘れていましたが、一緒に行った友達に「あのときの占いで……」と言われて思い出して、ゾワッとしました(笑)。

(聞き手=松永詠美子)

▽姫乃樹リカ(ひめのぎ・りか)1971年、大分県出身。88年「硝子のキッス」でアイドル歌手としてデビュー。94年に芸能界を引退。米国人ミュージシャンと結婚後、米国に移住した。2019年から日本で再始動。ニューマキシシングル(タイトル未定)が9月20日に発売予定。10月27日(渋谷エッグマン)、同29日(新横浜NEW SIDE BEACH)にライブが行われる。



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