能登半島地震から100日…タレント清水国明さんが泥縄の災害対策に苦言「行政の人災です」

公開日: 更新日:

日本全国でキチンと備えることで災害に強い国にすべき

 ──本来、どういう備えが必要なのでしょうか。

 イチ押しは移動式のトレーラーハウスを準備することです。例えば東京なら、郊外のさまざまな地域に何千何万台というトレーラーハウスを分散して置いておく。平時はそれをキャンプなどができる「レクリエーションビークル(RV)パーク」として一般市民に利用してもらう。いざ、災害が発生した時は被災地に移動させるわけです。

 ──トレーラーハウスならトイレや寝室があり、プライバシーも守られる。

 これは何も自分で思いついたわけではなくて、米国のFEMA(連邦緊急事態管理庁)が既に実施している対策です。いまの日本の災害対策は、海外の人からすると「なんで日本は先進国で税収もたくさんあるのに、災害のたびに“難民”が発生するのか」と不思議なのだそう。日本全国でキチンと備えることで災害に強い国にすべきです。

 ──事前の備えが足りていないと。

 災害に対する考えが甘いのでしょう。人間は、大したことは起きないだろうと思い込もうとして、事態を矮小化してしまう特性があります。いわゆる「正常性バイアス」と呼ばれるものです。行政自体が「正常性バイアス」にとらわれてしまっているとしか思えません。

 ──行政が事態を過小評価しているわけですか。

 この前、家に東京都から防災ブックという冊子が送られてきてビックリしました。内容もだけど、小池百合子知事の顔写真入りのチラシが同封されていて、なんじゃこりゃと……。

 ──今夏の都知事選に向けた事実上の選挙活動という指摘もあります。

 まあ、そうですよねぇ。一応、全部読みましたけど、中身もおかしい。首都直下地震が起きた場合の被害者数の想定が10年前と比べて3割ほど減ったと書いている。理由は、住宅の耐震化とか不燃化を進めた結果だと、成果を強調しています。でも、建物や道路といったインフラは10年で老朽化するわけです。東京は人も増えていて人口密度も高くなっている。それに、10年前の想定は「東京湾北部地震」を基にしていたのに、今回は「都心南部直下地震」を基にデータを取っている。インフラ老朽化や人口密度の違いを加味せず、データを取る震源も違うなら、数字が変わるのは当たり前だろうと思います。「やることはやりましたよ」というアピールにしか見えない。これも「正常性バイアス」で想定を矮小化したのではないかと思わざるを得ません。

■「自助」「共助」を求める小池都知事

 ──いわゆる、“やっている感”の演出ですね。

 最も納得がいかないのは「自助」「共助」の重要性ばかりをうたっていることです。「自分で命を守りましょう」「皆で助け合いましょう」と。いやいや、おまえがそれを言うなよ、と思います。僕たち民間が担う自助、共助は重要だけど、大前提である「公助」はどうなっているのか。災害関連死を防ぐためのしかるべき場所と備品を備えているんですか? ちゃんとした仮設住宅すら造らずに「自分たちで何とかしてください」ということばかり言っている。これは、今から言い訳してやがるなと思ってしまいますね。

 ──小池知事は「備えよ、常に」を合言葉にしています。

 災害発生後に首長さんが防災服を着て陣頭指揮を執ることを「防災服コスプレ」と言うのですが、小池知事の場合は襟を立てて出てくるのではないですかね。見た目を良くして人気取りばかり考えているような人には、災害対策のトップに立ってほしくない。現場に行って、怒ったり泣いたり叫んだりしている人の方がふさわしいと思います。何が必要か分かるわけですからね。

■防災訓練より1回のキャンプ

 ──国民一人一人はどう備えるべきでしょうか?

 僕は100回の防災訓練よりも1回のキャンプが重要だと考えています。2004年に発生した新潟県中越地震の際、現地に支援活動しに行った時の話です。揺れによる被害を避けるため、交差点の真ん中でブルーシートを敷いて一晩過ごしたおばあちゃんに話を聞くと「夜が明ける寸前が一番寒いんです」と。よくキャンプをしている僕からすると当たり前の話で、「数十年生きてきて、おばあちゃんはそんなことも知らないんだ」と思った。1回キャンプをすれば、火をつけるのがどれだけ難しいか、火がどんなに熱いか、消火がいかに難しいか──。そういうことが分かる。一晩地べたで寝ることで、眠っている本能がプチプチプチッと覚めるような感覚があるんですよ。そんな経験が万一の災害の時、どう行動すればいいかの判断材料になると思います。それこそが真の備えです。

(聞き手=小幡元太/日刊ゲンダイ

清水国明(しみず・くにあき) 1950年、福井県生まれ。73年にフォークソングデュオ「あのねのね」で芸能界デビュー。95年にアウトドアライフネットワーク「自然暮らしの会」を主宰、代表を務める。2011年の東日本大震災以降、NPO法人「河口湖自然楽校」を拠点に被災地復興支援活動に積極的に関わっている。

■関連キーワード

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か