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鈴村裕輔野球文化学会会長・名城大教授

1976年、東京都出身。法政大学博士(学術)。名城大学外国学部教授。主な専門は政治史、比較思想。野球史研究家として日米の野球の研究にも従事しており、主著に「MLBが付けた日本人選手の値段」(講談社)がある。スポーツを取り巻く様々な出来事を社会、文化、政治などの多角的な視点から分析している。アメリカ野球学会会員。

キューバ五輪予選敗退の必然 相次ぐ亡命と深刻な人材不足

公開日: 更新日:

 しかも、亡命した選手は、母国への帰還が禁じられる。そのため、キューバは、ヤンキースのアロルディス・チャップマンや元メッツのヨエニス・セスペデスといった、本来であれば代表として活躍すべき選手を欠いたまま国際大会に臨まざるを得なくなった。

 キューバ代表が10年のIBAFインターコンチネンタルカップを最後に国際大会で優勝していないことからも、キューバ球界にとって人材の確保が不可欠なのは明らかである。

■トランプ政権が協定破棄

 15年に当時のオバマ政権が米国とキューバとの国交回復を行い、野球についても18年に大リーグ機構とキューバ野球連盟の間で協定が結ばれた。これにより選手が亡命することなく大リーグに移籍できる仕組みなどが整えられ、キューバ球界にとって現状を打破する機会が訪れたかに見えた。

 だが、「反オバマ」のトランプ政権が協定を破棄し、バイデン政権もキューバとの関係改善には消極的なため、新たな協定は結ばれていない。

 さらに、若年層を中心にサッカー人気が高まりを見せ、有望な人材が野球を選ばなくなる傾向があることを考えるなら、状況が劇的に変化することは期待できないし、今年4月にキューバ政府の体制が刷新されたことで、野球を特別視した「カストロの時代」は完全に幕を下ろした。

 一連の出来事は、今後、キューバでは野球だけが特別視される時代は再び訪れないことを示唆している。その意味で、野球大国と思われたキューバが東京五輪の米大陸予選で敗退、五輪出場を初めて逃したことは、決して偶然ではなかったのである。

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