著者のコラム一覧
元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

【味の素スタジアム】日本vs南ア戦の会場はバリケードに覆われ、防音対策で国歌すら聞こえず

公開日: 更新日:

【味の素スタジアム】

「目の前で南ア戦が行われるのに入れない。これは『復興五輪』じゃなくて『失望五輪』ですよ」

 7月22日、東京五輪Uー24日本代表の初戦・南アフリカ戦が行われた東京・味の素スタジアム。 キックオフの約2時間前(午後6時過ぎ)から選手バスの到着を待っていた吉田麻也(サンプドリア)の「22番」をつける熱心なサポーターは、ため息交じりでこうつぶやいた。

 筆者にとってもここは2001年の開業以来、FC東京の試合などで頻繁に訪れ、慣れた場所だ。

 しかも、同日はチケットで試合観戦する予定だった。にもかかわらず、目につくのはバリケードに覆われたスタジアム全体とウロウロする警官や私服警察の様子ばかり。

 ファンの憤りに強い共感を覚えた。

■親子連れが残念そうに記念撮影

 この日の味スタでは、日本ー南ア戦の前に同じグループA組のメキシコーフランス戦が午後5時から行われた。

 直前に行けば、両国の国歌斉唱くらいはスタジアムの外で聞けるかもしれない、と考えて最寄り駅の京王線・飛田給駅から徒歩5分の正面ゲートに向かった。

 ただ、残念なことに完璧な防音対策が講じられ、国歌は全く聞こえなかった。それでも五輪動画サイトを見ながらフランスの国歌「ラ・マルセイエーズ」を静かに唱和する人の姿もあった。

 彼らはエムバペ(パリSG)のファンなのか、名前入りのレプリカユニフォームを着用。心から応援していたが、エムパペが不参加でU-24世代の主力級も招集できななかったフランスは、メキシコの4-1で敗れてしまった。熱烈な応援は残念ながら結果に結びつかなかったようだ。

 一方、勝者となったメキシコのサポーターもスタジアム前に姿を見せていた。

 レプリカ姿の3人組に話を聞くと1人は都内在住のサッカーコーチ、2人は新潟からやって来たボランティア。江東区晴海の選手村付近で意気投合して「チケットは持ってなかったけど近くで応援したいと思って来ました」と言う。

 そうやってスタジアム内外で国際交流が行われるのが五輪の醍醐味。今回はPVやイベント会場が閉鎖され、そういう場は皆無に近いが、ポジティブな空気をほんのわずかでも感じられたのはいいことだ。

 しかしながら、一方では幼い子供を連れた親子連れが何組かが残念そうに記念撮影していた。

 その様子を見るのはやはり辛い。

「近くで五輪があるので少しでも雰囲気に触れたいと来ました。一目でもいいから子供に試合を見せたかったですね」と三鷹市から訪れた父親は複雑な胸中を吐露した。が、願いは叶わない。

 冒頭のバス待ちのサポーターを含めて「なぜ無観客なのか」という疑問は、本番のサッカーの試合が始まっても拭えない。

 南アに1ー0で勝利した日本が予想以上に苦戦したのも、ファンの声援という後押しをもらえなかったことが大きい。

 本当に無観客でよかったのか否か。政府と東京都、組織委員会はしっかりと検証すべきだ。

スタジアム前のショップも大打撃

 無観客五輪のマイナスを被っているのは、サポーターだけではない。

 経済効果を期待していた飲食店やショップ関係者もダメージを受けている。

 飛田給エリアではコロナ禍以降、コンビニや居酒屋が何店か閉店を余儀なくされているが、営業を続ける店も売り上げが伸びずに苦慮しているのだ。

 その1つが味スタの目の前にある「スーパースポーツゼビオ調布東京スタジアム店」。

 本来なら南ア戦開催当日は4万人以上の大観衆が押し寄せ、3階の五輪オフィシャルグッズコーナーには買い物客が殺到するはずだった。だが、人影はまばら。

「2019年のラグビーW杯開催時はレジに大行列ができ、アルバイトも総動員して対応したほど。閉店の午後8時には到底閉められず、午後10時まで働いていました」と当時を知る男性店員は、落差にショックを隠せない。

 2020年後半あたりからは、週末の売り上げは回復しつつあったというが、今春になってJリーグの観客制限が再び強化され、五輪も無観客となれば、客足が伸びるはずもない。「公式グッズもなかなか売れないですし、ホント困ったものですね」と彼は苦笑する。

 目下、店側の悩みは2階入口の大画面テレビで五輪中継を流すか、それとも否か。流せば「密」ができる恐れがあり、流さなければ雰囲気が盛り上がらない。

 味スタではサッカーの試合が続くし、隣の武蔵野の森総合スポーツプラザでは、金メダルが有力視される桃田賢斗バドミントンも開催される。それを中継していなければ、客からお叱りを受けるかもしれない。

 五輪会場のお膝元は、いろいろな難しさを抱えているのである。

(元川悦子/サッカージャーナリスト)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • サッカーのアクセスランキング

  1. 1

    三笘薫の不在は「メッシのいないアルゼンチン」 代表メンバー発表で涙の森保監督はW杯をどう戦うのか

  2. 2

    サッカー元代表DF秋田豊さん「ヘディングではほとんど勝てた」 3試合フル出場98年フランスW杯を振り返る

  3. 3

    銃撃戦にデモの恐怖…それでも日本にとってメキシコ開催がラッキーなワケ

  4. 4

    吉田麻也元主将を森保ジャパンに“今さら招集”の思惑…W杯北中米大会は選外なのに

  5. 5

    JFAは森保一氏の“囲い込み”に必死 W杯後の「次の日本代表監督」のウワサが聞こえない謎解き

  1. 6

    板倉滉は「潤滑油」、三笘薫は「探求者」…少年時代から際立っていた2人の異能(川崎U12元監督・髙﨑康嗣)

  2. 7

    本田圭佑の“手術痕”は…気になる「バセドー病」の症状と術後

  3. 8

    久保建英は13歳でU17入りも「『俺にボールをよこせ』と要求できるメンタリティーでした」(U17日本代表元監督・森山佳郎)

  4. 9

    三笘薫は「もともとはパサー」 ドリブル突破を生み出す久保建英との共通点(川崎U12元監督・髙﨑康嗣)

  5. 10

    鈴木淳之介〈前編〉コロナ禍に大変貌「強豪校監督が『ジダンじゃん』と目を丸くした」(帝京大可児高監督・仲井正剛)

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    萩本欽一(11)ひとりぼっち寂しく貧乏飯を食べながら「先生も同級生もバカだな」と思うことにした

  2. 2

    医学部に進学した息子のために老後破産したエリートサラリーマンの懺悔

  3. 3

    嵐が去る前に思い出す…あの頃の「松本潤」と「大野智」

  4. 4

    仲間由紀恵46歳の“激変ふっくら姿”にネット騒然も…紆余曲折を経てたどり着いた現在地

  5. 5

    国会答弁イヤイヤが見え見え…高市首相が党首討論で「サナエらしさ」全開“屁理屈”反論のア然

  1. 6

    混戦制した河本結の"自己中プレー"に中継解説者が苦言…人気女子プロに問われるモラルとマナー

  2. 7

    出口夏希の“男選び”がもたらす影響…伊藤健太郎との熱愛報道と旧ジャニファンが落ち込む意外

  3. 8

    田中将大が楽天を去った本当の理由…退団から巨人移籍までに俺とした“3度の電話”の中身

  4. 9

    文春が報じた中居正広「性暴力」の全貌…守秘義務の情報がなぜこうも都合よく漏れるのか?

  5. 10

    餃子の王将&ココイチで客離れ進む衝撃…外食「1000円の壁」で分かれる明暗