元川悦子
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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

今や森保Jの守備の要に 冨安健洋の「原点」をアビスパ福岡U-15時代の恩師が明かす

公開日: 更新日:

藤崎義孝(元福岡U-15監督/現・福岡強化部担当兼アカデミーテクニカルアドバイザー)

 19歳でベルギーのシントトロイデン、20歳でイタリアのボローニャ、そして22歳で英プレミアの名門アーセナル……と驚異的なスピードで世界の階段を駆け上がった冨安健洋。日本代表でも19歳だった2018年10月のパナマ戦(新潟)でデビューしてすでに29試合を記録。152試合の歴代最多出場を誇る遠藤保仁(磐田)も「自分を超えるとしたら冨安君」と名指しで期待感を示すほどだ。「ポジション的には代表最多を記録する可能性はある。それ以上に規格外の選手になってほしい」とアビスパ福岡U-15時代の監督だった藤崎義孝・強化部強化担当兼アカデミーテクニカルアドバイザーも語気を強める。恩師が語る日本屈指の逸材の原点とはーー。

 ──冨安は中1から福岡でプレーした。

「最初に生で見たのは、セレクションを受けに来た小6の時。彼が通っていたバルセロナスクールと福岡はもともと関係が深くて『彼の特徴はスピード。(バルセロナで長く活躍した元ブラジル代表の)世界的右SBダニエウ・アウベス(メキシコ・プーマス)のようなダイナミックな選手になりそうだ』という推薦状ももらっていました。でも、スーパースターという印象はなかった。身長と速さがあり、全てのプレーを忠実にこなせるいい選手でしたが、一人でごぼう抜きしてゴールを決めるようなタイプではなかったですからね」

 ──福岡ではSBでは使わなかった。

「日本には、あれだけの高さと速さと技術を備えた人材はそうそういないので(苦笑)。基本的には、ボランチとして起用していました。育成年代は、360度の視野と展開力が求められるボランチを経験していた方がいいという考えもあって起用しました。前線を追い越してゴール前まで上がっていったり、68メートルの(ピッチの)幅を使った展開だったり、最終ラインをカバーする動きなど多彩な仕事を担っていたと思います」

■謙虚さとひたむきさと自立心を持ち合わせた少年

 ──彼の人間性は?

「謙虚さ、ひたむきさ、自立心を当たり前のように持ち合わせた少年でした。私自身、タケに対して特別に指導した実感がない(笑)。家庭での教育が素晴らしかったのでしょう。13~15歳の選手は、人に言われて決まりごとだけをこなす子も多いのですが、タケは自宅と練習場が近かったこともあって一番早く来て準備をし、練習後も率先して片づける。その姿を見て同期たちも意識が変わり、見習うようになった。いるだけで存在感が示せる人間でした」

 ──彼の立ち居振る舞いで驚かされたことは?

「自主練や筋トレにしても『タケなら(言われなくてもやるのが)当たり前』という感じで本当に驚きがなかったんです。ひとつ思い出せるのは、U-15日本代表に行ってから、体幹強化を継続していたこと。『代表で教えてもらいました』とうれしそうに言っていました。自分にプラスになると思ったことは、何でも自発的に取り入れる。向上心が凄まじかったです」

 ──チームでは主将?

「そうですね。ただ、彼の代は杉山直宏(熊本)らいい選手が多く、あの時点ではタケがそこまで飛び抜けたタレントというわけではなかった。本人は、誰かをライバル視することもなく、周りをフォローしながらプレーしていました。中3の時はナイキ・プレミアカップで3位になりましたが、クラブユース選手権が8強、高円宮杯U-15は全国に出られず、タイトルとは無縁でした。彼も悔しかったと思います」

 ──ユース昇格後は?

「中3からトップチームのキャンプに同行するなど、クラブとしても期待が大きかった。ただ、潜在能力が高くても自信を失ったり、天狗になったりして成長が止まってしまう選手も少なくありません。そうならないように『タケには可能な限り、多くの刺激を与えてやりたい』という意向で向き合っていました。高2から2種登録(Jリーグ公式戦出場資格)されたのも不思議ではなかったです」

 ──挫折は?

「強いて挙げるなら、高1だった14年のAFC・U-16選手権(タイ)。日本は準々決勝で韓国のエースのイ・スンウ(水原)に2発を浴びて完敗。世界大会を逃したのですが、2点目はタケが1対1でぶっちぎられた形だった。本人も帰ってきて『やられました』と言っていました。普段は、あまり感情を表に出さない彼が珍しく悔しさをにじませた。そこから目の色を変えてサッカーに取り組み、高2の公式戦デビューにつなげました」

 ──高3だった16年後半からはトップのレギュラーに定着しました。

「最初は『ついていけるのかな』と少し心配して見ていたのですが、高3のキャンプに参加し、練習試合で物凄いインターセプトをした場面を見て『こんなのができるんだ。狙ってやっているとしたら恐ろしいな』と感じたほどです(笑)。ボール保持者に対して冷静に対応できるところは、とても17歳とは思えなかったですね」

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