記者の電話取材に激怒した魁傑の矜持「私はベストを尽くしているのに…」

公開日: 更新日:

聞くなら部屋や自宅へ来い

 1977年秋場所で魁傑(後の放駒親方)が負け越し、大関から2度目の転落が決まったころ、自宅に取材の電話があったという。引退の可能性を聞かれ、「そんなことを電話で聞くのか」と激怒した。

「私は(土俵で)ベストを尽くしているのに、記者がベストを尽くしていないと思ったから」

 聞くなら部屋や自宅へ来い。それが記者としてベストを尽くすことだ――生真面目な魁傑らしい。

 私も苦い経験がある。86年の初めごろ、自宅へ社から電話があり、10月のパリ公演が正式決定したとフランスの通信社が伝えてきたから、春日野理事長(元横綱栃錦)の談話が欲しいという。

 夜8時を過ぎていた。春日野部屋まで1時間半近くかかる。着くころに理事長は休んでいるだろう。早寝の人が多い世界で、8時ごろに夜回りしても親方が寝ていることがよくある。

 迷った末に電話すると、理事長はちゃんと答えてくれた。やれやれと思ったが、翌日、役員室へお礼に行くと、やっぱり怒っていた。

「電話取材なんて、横着しやがって!」

 もちろん、平謝りした。

 リモートは顔が見える分だけ、電話よりましなところもあるが、同じ空気を吸わず、画面に映るものしか見えない。千代の富士の「体力の限界、気力もなくなり……」や稀勢の里(現二所ノ関親方)の「一片の悔いもありません」などの言葉と涙がリモートの引退記者会見だったら、あれほど熱く報道され、人々に届いただろうか。

 コロナ禍ではやむを得なかったが、これからの原状回復へ向けて、失ったものをよく認識し、この際に30年、40年前まで思いを至らせてみたい。

▽若林哲治(わかばやし・てつじ)1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    【原田真二と秋元康】が10歳上の沢田研二に提供した『ノンポリシー』のこと

  3. 3

    カーリング女子フォルティウスのミラノ五輪表彰台は23歳リザーブ小林未奈の「夜活」次第

  4. 4

    3度目の日本記録更新 マラソン大迫傑は目的と手段が明確で“分かりやすい”から面白い

  5. 5

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  1. 6

    福山雅治&稲葉浩志の“新ラブソング”がクリスマス定番曲に殴り込み! 名曲「クリスマス・イブ」などに迫るか

  2. 7

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  3. 8

    松岡昌宏も日テレに"反撃"…すでに元TOKIO不在の『ザ!鉄腕!DASH!!』がそれでも番組を打ち切れなかった事情

  4. 9

    年末年始はウッチャンナンチャンのかつての人気番組が放送…“復活特番”はどんなタイミングで決まるの?

  5. 10

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった