長嶋茂雄さんはホノルル空港の入国審査を“フリーパス” 木村拓哉さんと一緒に僕も恩恵に預かりました
そんな長嶋さんと初めて対面したのは、高校3年生のとき。オリオンズ入団が決まった64年の冬のことでした。新聞社の対談企画で、箱根にあったある企業の保養所を訪ねました。そこでシーズンの疲れを癒やしていた長嶋さんは、詰め襟の学生服姿だった私の姿を認めるや、「山崎君、よく来たね」とあの朗らかな声で迎えてくれ、カレーライスをごちそうしてくれました。対談でどんな話をしたのか、ほとんど記憶にありません。憧れの人を目の前に、ガチガチだったのです。
現役引退後も、「これぞスーパースター」と改めて思い知らされたことがありました。毎年の恒例だったハワイでの名球会のイベントでのことです。集合日の3日前に妻と羽田発の2階建てジャンボ機に乗り込むと、同じように前乗りする長嶋さんとバッタリ。私の前の席には、たまたま俳優の木村拓哉さんが座っていました。
驚いたのは、ホノルルに到着した直後です。到着口には航空会社の関係者が長嶋さんを待ち受けていました。入国審査のカウンターは長蛇の列。妻とその最後尾に並ぼうとしていると、関係者に先導された長嶋さんが、「ヤマちゃん、こっちこっち」と手招きするのです。「キムタクさんもどうぞ」と声をかけ、列の脇をすいすいと進んでいき、入国審査もフリーパスで通り抜けることができました。さすがに、別室で審査を受けた記憶がありますが、どこに行ってもミスターの存在は特別だったのです。
▽山崎裕之(やまざき・ひろゆき) 1946年、埼玉県生まれ。上尾高時代のバックスクリーン弾で注目され、65年に東京オリオンズに入団。78年オフに西武に移籍。20年間にわたって名二塁手として活躍し、通算2081安打で名球会入り。