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「猫のよびごえ」町田康著

[漱石の小説を例にするまでもなく、文学と猫との相性は昔から抜群にいい。特に猫好きな貴兄なら、タイトルに「猫」が入った本を手あたり次第に読んでみると、猫の魅力にすっかり骨抜きにされるに違いない。そこで今回は、作家を振り回す猫、猫探偵、武士だったはずの猫、長屋を仕切る美猫、スパイ猫と、毛色の違った5匹をご紹介。さて、あなたのお好みの猫はどれ?]

 熱海の海岸を散歩していたとき、やたら人なつっこい猫を見つけた著者。

 観光客の手から躊躇せずにもらったものを食べ、海水が飲めないことも知らずに飲もうとしていた姿を見て、捨てられた飼い猫だと直感する。こいつは野良では生きていけないと思ってしまったばかりに、何度も迷ったあげく結局は家に連れて帰ることに。しかし、家にはすでにシャンティー、エル、奈奈らの先住猫たちがいた。

 ビーチと名付けた空気を読まない新しい猫が闖入してきたことで家の中に波乱が巻き起こる。しかも、なぜか次から次へと猫を拾ってしまうため、著者の大切な仕事スペースさえも侵食されていき、餌代のためにささやかな楽しみである自分の酒代の予算すら削らなければならない事態におびえ始めるのだが……。

 本書は、愛らしい猫に振り回される日々をつづったフォトエッセー。猫と人との微妙な力関係や、猫社会のコミュニティーの面白さなどがユーモアたっぷりに描かれている。(講談社 620円+税)

「猫は毒殺に関与しない」柴田よしき著

 作家をなりわいとする桜川ひとみの飼い猫・正太郎の周辺で起こるさまざまな事件を描いた「猫探偵正太郎の冒険」シリーズ第5弾。

 表題作は、破格の値段で借りていた神楽坂のすてきな一戸建てから引っ越しを余儀なくされた桜川が、作家仲間の四方幸江を中傷する人物をあぶりだすために神奈川某所に見つけた引っ越し先の古い家で鍋パーティーを開くことになった話。しかしその集まったメンバーの中に毒殺を企てる者が交じっており、パーティーの水面下では危険極まりない状況が展開する。

 読者だけが危険を知っており、登場人物はのんきという構図にハラハラさせられること必至だ。ほかにも、桜川宅の隣で起きたある事故の真相が明かされる「猫は3日で忘れる」、近くの老人療養施設で起きた高齢者脱走事件の謎を解く「正太郎、恋をする」も収録。

 自分の行動範囲からしか物事が見えない人間に対して、全体を俯瞰できる猫の視点から事件の真相が見えてくる仕組みが心憎い。(光文社 520円+税)

「大あくびして、猫の恋」かたやま和華著

 主人公は、ある祟りから白猫にされてしまった旗本の跡取り・宗太郎。腰に二本差しを下げたれっきとした武士なのだが、周囲からは人に化ける修業中の猫だと誤解されて猫先生と呼ばれていた。百の善行を積めば人間の姿に戻れると知り、困っている人に猫の手を貸す「猫の手屋」を営んでいる。

 そんな宗太郎のもとに、昼間にふらりとどこかへ消える飼い猫・桃太郎の行き先を調べてほしいという依頼が舞い込んだ。後をつけた宗太郎は、桃太郎が市井を抜けてある旗本の屋敷にするりと入り込んでいくのを目撃したのだが、実は気ままに見えた桃太郎にはある特別な役目があった……。

 本書は、人気の猫の手屋繁盛シリーズの最新刊。腕利きのスリの男があの世へ行く前の思い残しを解消するお礼参りに付き合ったり、宗太郎が人間だった頃の許嫁・お琴から自分自身の行方を捜してほしいと依頼されたりと、今回も事件が満載。真面目なのに、ちょっと抜けている主人公のキャラクターが憎めない。(集英社 550円+税)

「鯖猫長屋 ふしぎ草紙」田牧大和著

 物語の舞台は、「鯖猫長屋」と呼ばれる江戸の根津宮永町のおんぼろ長屋。鯖縞柄の美しい雄猫サバが人間よりも偉そうな顔をして君臨しているため、こう呼ばれている貧乏長屋に、ある日なぜか育ちのよさそうな娘・お智が引っ越してきた。サバの飼い主の売れない絵描き・青井亭拾楽は、お智から自分の絵を描いてほしいと頼まれる。猫しか描かない拾楽は、お智の絵姿をサバと一緒に描くことにしたが、そこにお智を追いかけてきた珍客がやってきて大騒動となるのだが……。

 長屋に巻き起こる不可解な事件をサバと拾楽が一緒に解決していく謎解き時代小説。「開運うちわ」「いたずら幽霊」「猫を欲しがる客」「俄か采配」など7編収録。猫好きならたまらなくなる美しくも堂々としたサバの立ち居振る舞いや、サバにかしずくようにして暮らす人情味あふれる長屋の人たち、さらにはサバの弟分となる大型犬・アジなどが魅力的に描かれ、謎解きと共に猫を愛でるお江戸暮らしの心地よさも味わえる。(PHP研究所 780円+税)

「猫に知られるなかれ」深町秋生編

 戦後の混乱期。永倉一馬は、陸軍中野学校出身の藤江忠吾にスカウトされ、国際謀略に対抗すべく設立された秘密機関「CAT」の一員となった。戦争中に香港に潜む抗日ゲリラを見つけ出す任務についていた永倉は、占領軍が跋扈する池袋でヤクザの用心棒をしつつ、いつかは監獄にぶちこまれるだろうと覚悟していたのだが、共産主義者の侵攻を食い止めるためにCATに協力すれば戦犯指名を免れるという話を藤江が持ってきたのだ。

 一度は断ったものの、テロを働く暴漢を目の当たりにして、水面下では次の戦いが始まっていることを知り藤江とコンビを組むことを了解する。CATの背後には占領軍が去ったあとの新しい日本を築くための情報収集組織を早急につくりたいと考えた、吉田茂や新聞記者の緒方竹虎がいた……。

 魑魅魍魎のうごめく戦後日本の暗闇を描いたスパイアクション小説。飼いならすことのできない猫のような野性を抱えた人間の苦闘が、容赦ない鋭い筆致で描かれている。(角川春樹事務所 600円+税)

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