立川にある航空中央音楽隊が舞台
「碧空のカノン」福田和代著/光文社文庫 600円+税
大相撲の千秋楽、優勝力士の表彰式では君が代が演奏されるが、あの演奏をしているのは自衛隊の音楽隊だ。国家行事における演奏や外国要人の来日時の式典演奏などを行う音楽隊を、陸・海・空、それぞれ独自に有している。
本書は、全国に5つある航空自衛隊の音楽隊のうち東京・立川にある航空中央音楽隊が舞台。音楽隊といっても自衛隊員であるから、他の隊員と同じく射撃訓練なども行い、東日本大震災のときには、被災地での慰問演奏と同時に、がれき撤去や給水などの復旧支援活動にも参加した。
【話題】主人公は鳴瀬佳音、階級は空士長で担当楽器はアルトサックス。高校では吹奏楽部に所属し、音楽大学を卒業後、航空自衛隊の音楽隊に入隊。入隊7年目で、来春の昇進試験に合格して空曹にならないと、継続任用にならないという瀬戸際に立たされている。おっちょこちょいで「天然」な彼女だが、なぜかトラブルの方から近づいてくる。たとえば〈ふれあいコンサート〉で演奏を予定しているギルガメシュ交響曲のアルトサックス・パートの楽譜がなくなったり、技術指導に訪れた中学校の吹奏楽部から楽器のパーツが盗まれたり、音楽隊の撮影にやってきた戦場カメラマンに、亡くなった友人から送られた絵ハガキの謎を解いてほしいと頼まれたり……。すると自然に彼女の周りに仲間が集まってにわか探偵団が結成され、難問に立ち向かっていく。
【読みどころ】音楽・自衛隊・謎解きの3つの要素を巧みに織り交ぜ、音楽隊というユニークな組織を描いている。中途半端な形で終わっている佳音と同期の渡会俊彦との恋の行方も気になるところだが、それは続編の「群青のカノン」「薫風のカノン」で。
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