シューマンの伝記的事実とシンクロする物語

公開日: 更新日:

「シューマンの指奥」泉光著 講談社文庫 648円+税

 著者はキーボードやフルートを奏すミュージシャンとして活動を行ってもいる。それだけに音楽をテーマにした作品も多い。本書は、タイトルにあるようにドイツ・ロマン派の作曲家ロベルト・シューマンに傾倒する若きピアニストを主人公にした音楽小説。

【あらすじ】音大のピアノ科を目指していた里橋優が高校3年になった時、天才ピアニストとして名を馳せていた永嶺修人が新入生として高校に入ってきた。この早熟の天才はシューマンを敬愛し、里橋を相手に彼の作品がいかに素晴らしいかをとうとうと語る。そのシューマン熱はさらに高じて、シューマンが作り出した架空の団体「ダヴィッド同盟」の名を取った音楽批評の雑誌を里橋と作るなど、濃密な付き合いが始まっていく。

 受験でしばらく付き合いが遠のき、浪人が決まった春休みのある晩、里橋が母校を訪れると、音楽室からピアノの音が聴こえてきた。シューマンの「幻想曲ハ長調」だ。修人の弾く曲に陶然と酔いしれた里橋だが、演奏が終わると同時に女性の悲鳴が上がる。プールで女子生徒が殺されていたのだ。犯人は不明なまま2年ほど経ち、里橋は信州の別荘で修人が指を切断し、その指を暖炉に投げ込む場面に遭遇する。それきり修人は姿を消すのだが、奇怪なことに指を失ったはずの修人が海外のコンサートで演奏したという情報が届く……。

【読みどころ】修人の口を通してシューマンの人生が語られていくのだが、指を痛めピアニストを断念したり、晩年には精神を病んだシューマンの伝記的事実と物語の出来事がシンクロしながら進行していく。

 謎解きの要素もたっぷり注入されつつ、細部にわたって緻密に作り込まれた、純文学とミステリーが見事に融合した傑作。
<石>

【連載】音楽をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    世良公則氏やラサール石井氏らが“古希目前”で参院選出馬のナゼ…カネと名誉よりも大きな「ある理由」

  2. 2

    国分太一が社長「TOKIO-BA」に和牛巨額詐欺事件の跡地疑惑…東京ドーム2個分で廃墟化危機

  3. 3

    浜田省吾が吉田拓郎のバックバンド時代にやらかしたシンバル転倒事件

  4. 4

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  5. 5

    「いま本当にすごい子役」2位 小林麻央×市川団十郎白猿の愛娘・堀越麗禾“本格女優”のポテンシャル

  1. 6

    幼稚舎ではなく中等部から慶応に入った芦田愛菜の賢すぎる選択…「マルモ」で多忙だった小学生時代

  2. 7

    「徹子の部屋」「オールナイトニッポン」に出演…三笠宮家の彬子女王が皇室史を変えたワケ

  3. 8

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  4. 9

    新横綱・大の里の筆頭対抗馬は“あの力士”…過去戦績は6勝2敗、幕内の土俵で唯一勝ち越し

  5. 10

    フジテレビ系「不思議体験ファイル」で7月5日大災難説“あおり過ぎ”で視聴者から苦情殺到