公開日: 更新日:

「『農業を株式会社化する』という無理」内田樹、藤山浩、宇根豊、平川克美著

 農水省と経産省のデタラメ指針にふりまわされる日本の「農」。そのあるべき未来は――。


 グローバル経済のもとで農業に何が起こったか。94年、NAFTA(北米自由貿易協定)が発効したメキシコでは米国から大量に安いトウモロコシが流れ込んだため、トルティーヤの材料となるトウモロコシ栽培をする農家がなくなった。ところがエネルギー危機でトウモロコシがバイオマス燃料の材料になるとわかったとたん、価格は7倍に高騰。メキシコ人は毎日の食事に困ることになった。グローバル化に限らず、これが「農業をビジネス化する」ことの実態なのだ。

 4人の著者は思想家から実際に農業にたずさわる実践者まで、それぞれ立場は異なるが、農業への理解と思いは深い。先のメキシコの話は内田氏の資本主義批判の一節。他方、自称「百姓」の宇根氏も「農業は資本主義とは相いれない」とする「農本主義」を説く。近代の失敗を乗り越えるための農業論だ。

(家の光協会 1400円+税)

「農と土のある暮らしを次世代へ」菅野正寿、原田直樹編著

 3・11の原発事故で壊滅的な被害を受けた福島県の農業は、いまどうなっているのか。絶望的な状況下でもあきらめず、有機農業を軸に復興をめざした農家は確かに存在した。本書はそんな農家とそれを支えた農学者たちの7年間にわたる協働の記録。

 放射性セシウム汚染の農作物への影響、チェルノブイリと比較した福島の里山の状況、地元の「道の駅」での取り組みの実態など、よそでは聞けない話を詳細に知ることができる。単なる安全神話とは違う、希望の農業論。

(コモンズ 2300円+税)

「本当はダメなアメリカ農業」菅正治著

 実はアメリカの農業は日本以上にダメである、ということを知っているだろうか。農産物の輸出でアメリカは世界一。その大半はトウモロコシと大豆だが、これらと綿花の9割以上が遺伝子組み換え(GM)。特にモンサント社はGM作物の種子販売で全米一。もとは強力除草剤で急成長し、ついで除草剤への耐性を持つ大豆を自前で開発して躍進した最大手だ。

 いまこのモンサントに大きな反対論が広がり、米農業界は「脱GM」を宣言した仏ダノンなどの外国企業やオーガニック志向の消費者と既存のGM勢力とのあいだで戦争状態になっている。

 本書はほかにもエリー湖の農業汚染問題や鳥インフルエンザ、移民排除による労働力不足と農業従事者の自殺問題など多岐にわたる米農業の問題をリポートする。著者は時事通信社のデジタル農業雑誌編集長。

(新潮社 740円+税)


【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  3. 3

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  4. 4

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  5. 5

    坂口健太郎に永野芽郁との「過去の交際」発覚…“好感度俳優”イメージダウン避けられず

  1. 6

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  2. 7

    板野友美からますます遠ざかる“野球選手の良妻”イメージ…豪華自宅とセレブ妻ぶり猛烈アピール

  3. 8

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景