「名人 志ん生、そして志ん朝」小林信彦著
落語史にその名を刻む昭和の大名人、古今亭志ん生と志ん朝親子を論じた落語エッセー。
昭和14年、5代目を襲名した志ん生は、長い不遇の時代を経て、昭和22年に大陸から引き揚げ後は脚光を浴び、昭和36年に脳出血で倒れるまで「志ん生時代」と称されるほどの人気を得た。志ん生は、その芸において「江戸っ子」を造形する必要がなかったという。なぜなら、彼の内部にすでにそれが存在していたからだ。
一方、志ん生の次男として生まれた志ん朝は、外交官や歌舞伎役者に憧れたが、志ん生の反対で噺家の道へ。著者はその死を知った日のことを追想しながら、志ん朝の死は江戸から伝わってきた大衆文化のひとつである江戸弁による江戸落語の美学の死だと評する。
(朝日新聞出版 660円+税)