森達也(映画監督)

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12月×日 この11月にシナハン(シナリオ作成のための現地調査)のために香川に行った作品の情報が、同行したテレビと新聞それぞれでニュースと記事として公開されたことで、事実上の解禁となった。プロデューサーは荒井晴彦と井上淳一、そして小林三四郎。脚本は佐伯俊道だ。僕にとっては初めての劇映画。まだここには書けないけれど、キャストも少しずつ決まりつつある。

 公開は2023年9月。これは明確に決まっている。なぜなら2年後の9月1日は関東大震災から100年を迎える日であり、震災後に関東各地で発生した朝鮮人虐殺が、この映画のテーマであるからだ。

「もしもアメリカで起きた事件なら、ハリウッドはとっくに何本も映画を作っているはずだ」という荒井のこの言葉の意味は大きい。映画界そのものがタブーの再生産に加担している。ならばそのタブーに正面から切り込む。資金など課題は多いけれど、とにかく映画制作は始まった。

 そのシナハンの行き帰りの際に読んでいたのが斎藤文彦著「忘れじの外国人レスラー伝」(集英社 840円+税)。ザ・デストロイヤーやアンドレ・ザ・ジャイアントなど、プロレスファンならお馴染みの10人の外国人レスラーたちの素顔が紹介される。実は彼らには共通項がある。すべて鬼籍に入っているのだ。ロード・ウォリアーズの2人とかダイナマイト・キッドとかビッグバン・ベイダーも含めて、すべて亡くなっていることを知らない人は多いだろう。著者でプロレス・ライターでもある斎藤文彦は、彼らとの思い出を愛情深く描く。早逝した彼らの人生はまさしく波瀾万丈だ。

12月×日 朝鮮人虐殺を再検証した加藤直樹の「九月、東京の路上で」(ころから 1800円+税)を読み返す。ほかにも読まねばならない資料はたくさんある。フェイクニュースが虐殺の燃料になったことや、不安と恐怖がエスカレートしたからこそ先制攻撃を正義としてしまったことなど(要するに敵基地攻撃論だ)、現代につながる要素は少なくない。あらためて制作の決意を新たにする。

【連載】週間読書日記

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